「トークンエコノミー」は何がスゴいのか? 「感性」を売買できる時代がやってくる

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世界中のあらゆる「資産」に対して、これらの仕組みを適切に設計することができればどんな社会が実現できるだろうか。ICOと同様に、資産の所有権を細かく分割したトークンを発行してブロックチェーンに記録することで、多くの人々がそのトークンを所有したり売買したりする「資産の流通」が実現する。

たとえば、人の創造性といった「感性」や、その感性から生み出される「アイデア」といった「感覚的資産」の流通すらも可能になる。人々が本当は価値があるだろうと感じていても、その価値を定量化できなかった「資産」である。

では、どうやって「アイデア」の価値(価格の目安)を定量化できるのであろうか?

IPOの例のように、「目利き力」がある可能性が高い人による「価値の合意形成」を仕組み化すれば良い。ただ、ここで言うところの「価値の合意形成」は「感性」のような「感覚的資産」を数字によってデータ化する必要がある。

ビットコインで用いられるPoW(プルーフ・オブ・ワーク=膨大な計算量を必要とする作業であり改ざんが不可能)のようなデジタルデータだけを扱う「合意形成」とは大きく異なり、感覚的資産をデータ化する方法に新たな工夫が必要であり、独自設計が必要となる。

さらに、「アイデア」に限らず、「スキル」、「人脈」といった定量化が難しかった資産を数字で見える化する。そして、「資金の出し手」といった、今までは細分化して流通させることが難しかったものでも、ブロックチェーンでのトークンという細分化流通技術を使って「分散化」させることができれば、起業家は必要なピースを市場から組み合わせて事業化でき、今よりはるかに高速かつ効率的にイノベーションを社会に送り出せるようになる。

ここまで来ると、もはや「会社」という事業体をとる必要もないだろう。「会社」も分散化すれば「人の集合体」であり、それらをさらに「分散化」して流通させている時点で、究極の「分散化社会」が実現している。

トークンエコノミーがもたらすより良い社会

このような社会では、各個人が自分の「強み」や「資産(有形、無形を含む)」だけをトークン化して流通網にのせることで対価を受け取ることができ、逆に自分がもっていないピースは流通させて、市場から調達すれば良い。そういった意味では、「究極の共創社会」、または「究極のシェアリングエコノミー」とも言える。

ここまでの話を総括すると、ブロックチェーン技術を活用したトークンエコノミーは、そこで生まれた「創造的価値」を世の中の最適な場所に届け、誰もが社会価値創造のバリューチェーンに貢献できる世界を実現しようとしている。

一方で昨今盛り上がりを見せるAI(=人工知能)やそれに伴う技術は、世の中から「must」を減らし、人間がより「創造的」な「want」や「will」に時間を使えるような世界を創ろうとしている。AIとトークンがそれぞれ実現させる世界観は、今後重なり合ってさらに新しい世界をもたらすこともあるだろう。

これらの技術はまだまだ黎明期ではあるが、今後ともに進化し、社会を変革することによって、私たち人類に「より良い世界」をもたらすことは間違いない。

松本 勝 VISITS Technologies CEO/創業者

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まつもと まさる / Masaru Matsumoto

東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマンサックス証券に入社。株式、 金利デリバティブのトレーダーを経て、2010年に人工知能を用いた投資ファンドを設立。2014年にVISITS Technologiesを設立し、人の創造性を可視化する「デザイン思考テスト」を独自技術(日米で特許取得)により開発。また、企業向け意思決定DXツール「VISITS forms」等のクラウドサービスを幅広く展開し、大手企業200社に対してイノベーション・DX推進の支援を行う。内閣府等のWG委員を歴任する他、2018年、スタートアップ経営者として初めてサマーダボスに招待され、その翌年には注目の経営者としてスーツ・オブ・ザ・イヤー2019を受賞する。

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