「トークンエコノミー」は何がスゴいのか? 「感性」を売買できる時代がやってくる

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ここで買い手の心理を考察してみよう。

売り手がnいる取引で価格競争(値引き競争)をさせた場合は、(談合がしづらい状況において)提示された最安値に対して、買い手は一定の「信頼」を見出すことができるが、売り手が1の場合は、提示された価格が正当か否かは、自分の「目利き力」を信頼する以外には、他の手がかりがないと判断が難しい。

さらに、いずれの場合についても「売り手」に対する「信頼」が前提となる。

こちらは、売り手の過去の販売実績や評判などで「信頼」を担保しようとする取り組みが多いが、売り手にとって初めての売買である場合には、評価の信頼性は限られる。

すなわち、「価値」の流通が成立するためには、「売り手」や「価格」に対する「信頼」を担保することが何よりも重要なのである(現金決済でない場合は、「買い手」に対する「信頼」の担保も必要)。

この「信頼」を担保する取り組みは、既に実社会ではさまざまな形で実装されている。その代表例が企業の新規上場=IPO(Initial Public Offering)だ。

IPOにおいては、新規上場企業(売り手)に対する「信頼」は、監査法人や証券取引所が行い、「価格」に対する「信頼」は、上場承認後の機関投資家向けロードショーを通じた「プロ投資家」による「目利き力」によって担保している。

具体的には、証券会社が、どれくらいの価格であればこの会社の株を買いたいかを「プロ投資家」にヒアリングを行い、発行価格を決定する。

ここでのポイントは、最終的にはモノの価格は市場における「取引価格」によって決定されるが、初めて取引されるモノについては、「目利き力」がある可能性が高い人による「価値の合意形成」により、信頼のある価格の目安を提供している点である。

発行時にこれがないと、市場が価値の実態を無視した、ただの投機ゲームになってしまう可能性が高いからだ。前述のVALUやタイムバンクが「不完全」と筆者が分析する理由は、この辺りの信頼や価値の合意形成の設計が精緻でないためである。

トークンエコノミーとは何か

トークンエコノミーという言葉は仮想通貨の盛り上がりに付随して認知が進んだ。国や政府が発行する法定通貨に依存しないトークン(貨幣の代わりになる「権利」のようなもの)と呼ばれる「代替貨幣」による経済だ。

最近では、LINEがブロックチェーン技術(ネットワーク内取引を記録する台帳であり共有できる。改ざんが難しい)を活用した独自のトークンエコノミー構想を発表し話題となった。

トークンを発行して資金調達を行い、株式のように上場させ、取引可能にさせる取り組みとしてICO(Initial Coin Offering)も注目されている。

だが、前出のIPOと比べても「信頼」や「価値の合意形成」の設計が、まだ不完全であるため、詐欺まがいのプロジェクトも横行していることも忘れてはいけない。

具体的には、「ホワイトペーパー」と呼ばれる「企画や構想を記した文書」を公開するのみで、売り手に対する信頼の担保や、信頼のある価格の目安を構築するための「価値の合意形成」の仕組みがきちんと設計されていないことが多いからだ。

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