飛行機の働き方改革「1人パイロット」の是非

航空機の「コックピット改革」は進むのか

「パイロット1人制」の導入は、世界各国の航空会社にとって年間約150億ドル(約1.7兆円)のコスト削減につながる可能性があり、現在パイロット不足に悩んでいる航空産業にとっても、十分な数のパイロットを確保しやすくなる、とUBSは指摘する。

操縦席にずらりと並ぶノブやスイッチを、10代の若者にも馴染みのあるデジタル化されたインターフェイスに置き換えれば、訓練期間を短縮して、さらにはパイロット不足の緩和につながる可能性がある。

最終的には、自動運転車の流れに沿って、民間ジェット機の完全自動操縦を目指すことになるだろう。とはいえ、この技術のためには主要メーカーによる白紙の状態からのジェット機設計が必要となり、タレスの試算によれば、実現には2040年までかかるという。

「自動操縦は、われわれのシステムに、心臓切開手術を行うようなものだ。現行システムはすべて、操縦室に常にパイロットを2人配備するように設定されている」とエアバスのデュモン氏は語る。

だが、こうした削減方針に対する批判もある。長距離フライトでは操縦室に3人以上、短距離フライトでも最低2人のパイロットを配備することには、安全上の正当な理由があり、そのメリットはコスト面でのデメリットを上回る、というのだ。

脆弱性の増大

例えば、長距離フライトの巡航で、1人のパイロットが休憩に入り、操縦室に1人しか残っていない場合、疲労が増大し、飛行中に発生する想定外の事象に対する脆弱性が増してしまうと、ロイターが取材した3人のパイロットは語り、2009年に発生したエールフランス447便の墜落事故を例に挙げた。

このとき、乗員乗客228人を乗せたエアバス330型機には、3人のパイロットが搭乗していたが、高高度からの失速から機体を回復できなかった。事故発生時には、経験の浅い2人のパイロットが操縦を担当しており、休憩していた機長が戻って対応したが、手遅れだった。

「彼らが直面した事態をシミュレーションで体験した。何が起きようとしているか、分かってはいても、非常に当惑した」とカンタス航空のパイロット組合を率いるマレー・バット委員長は語る。「あの真夜中に、飛行経験の浅い2人のパイロットがどんな気持ちだったか、想像もできない」

他に懸念されるシナリオとしては、2015年に発生した格安航空会社ジャーマンウィングスの事故のように、パイロットの1人による故意の墜落事故、また1人しかいないパイロットが航行中に健康問題を起こすリスクなどが挙げられる。

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