各社の取り組みに警鐘を鳴らす! 保険会社の透明性は向上だが導入には膨大な労力

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各社の取り組みに警鐘を鳴らす! 保険会社の透明性は向上だが導入には膨大な労力

国際会計基準審議会(IASB)や保険督者国際機構(IAIS)に先導され、国際的な会計・リスクの見直しが行われている。それにより今後、数年のうちに、保険会社の会計・リスク管理に大きな変革が起きることは必至といわれている。ところが、理論面では賛成でも、国ごとに保険の会計基準が異なり、実務面で各国の利害が対立するなど、実施内容は未確定の部分が多い。このため“保険の黒船”と騒ぐ割に、その影響は非常に見えにくいことも事実。時価評価(経済価値ベース)が導入されたとき、各保険会社で実際の作業の最前線に立つのがアクチュアリーだ。そこで日本アクチュアリー会の五十嵐勉・理事長に、時価評価導入の意義と、実務的には何が大変なのか、その影響について話を聞いた。

--時価評価(経済価値ベース)を導入することで何が違ってくるのでしょうか?

ソルベンシーの観点から言えば、経済実態を表す仕組みがなければ、本当の意味でのリスクマネジメントにはなりません。現在でも将来収支分析をして、不足を認識すればその不足分を責任準備金に積むという規定はあります。ただ、それは不足を認識する計理人の判断なり、収支分析等の内容に依拠しています。それをもう少し、誰もがわかりやすい基準で、経済実を表していこうということです。

たとえば、保険料が大きく割り引かれているのに、将来キャッシュフローを同じ予定利率で割り引くことはできません。市場と整合的なキャッシュフローを考えざるをえない。それほど高い金利運用が今の時代でできるわけがないですから。健全性確保という意味では、しっかりした評価が出てくるのではないかと思います。

--経済が動けば負債も大きく動きます。そうなれば、保険会社の業績は毎年、見かけ上、大きく変動することになりませんか?

業績とはなんぞや、という認識から入ってもらう必要があります。済価値ベースでは、まだ収益の定義がされていません。会計について結論が出ているわけではないのです。

健全性を見るとき、たとえば金利が上がるときと、下がるときとではリスクは違います。そのとき負債も変動するし、資産も変動する。それによるネットの保険会社のリスクはどこにあるのか、それを把握しておくことが重要なのです。またリスクがあるとすれば、そのリスクは何で担保するのか。いわゆるトータルバランスシートの考え方なんです。生命保険は長期の契約ですから、資産も長いデュレーションで保有しています。だから、収益的には金利上昇局面で楽になり、下落局面では厳しくなります。ただ、現在の基準ではそのような変動が把握できません。資産・負債の差異の幅がどの程度、揺れるかをリスクとして認識すれば、そのコントロールができるはずなんです。

--経済価値ベースになることで、会社の運営が真に健全かがわかるということですか?

そういうことです。ただ、開示の仕方が難しい。少なくとも今のように、ソルベンシーマージン比率だけを見る形ではなくなるでしょう。どこに、どれだけのリスクを持っていると明確にしたうえで、それを担保する資産はどのような性質の資を充てるのか。単純に200%がいいとか、そういう議論からは外れていくでしょう。ソルベンシーマージン比率が同じ800%の会社でも、リスクに対して90%のカバーをしているか、99・9%のカバーをしているかなど、内容は大きく異なってくると思います。

--アクチュアリーの仕事が膨大になりそうですね……?

実務面での準備は非常に膨大になりますよ。たとえば、負債のキャッシュフロー評価ひとつとっても、内部モデルを作って精査しなければなりませんが、モデルをそう簡単に作れないでしょ。リスクをキチンと評価し、それを織り込んだものを作るには相当なノウハウとテクニックが必要になります。内部モデルは、基本的に個社がそれぞれにいちばん適切だと考えるモデルを、証拠を示しながら、証明していく必要があるのです。したがって、個社の考え方、経営戦略、営業戦略のやり方で内部モデルはすべて違ってきます。雛形のような標準モデルを作るのは難しいでしょうね。

--具体的に、最低限やらなければならないことは?

簡単に言えば、将来のキャッシュフローを見積もることです。たとえば、死亡率や入院発生率は、個社の商品にって異なってきます。また、保険契約の継続率は、商品性・経済環境によって変化します。さらに複雑なのは、たとえば配当など、お客様にプラスになるような契約オプションが内在していることです。利益が出たら還元しますよということですね。このオプションをどう評価するかなど、前提ひとつ決めるだけでも非常な労力がかかります。

一律の基準を決めて計算したら、と言われますが、「各会社の経済実態を表す」のが新しい手法です。経済実態は会社の置かれている状況によって違うので、むしろ同じモデルを使うほうが変です。ただ、それを会社に所するアクチュアリーが勝手に決めるわけにはいきませんので、原理原則をしっかり定め、その原理原則に準拠して各アクチュアリーが設定しないといけません。実作業として計算が大変だということもありますが、まさにどう見積もるかが重要なのです。たとえば事業費も、現在のビジネスモデルが20年後に変化していると考えられるのであれば、どう事業が変わっていくのか、前提から考え直す必要が出てくるのです。

これに加え、リスク量も測定しなければなりません。解約率と金利との間にどのような相関関係が存在するかなど、関係性に応じてリスクの生状況も変わります。さらにリスクの見積もりは、これから起こることを推測しなければならないのです。現在は施行規則に沿って計算しているだけですが、そのようなものを根本から変えなければならないわけです。

経済価値というのは将来キャッシュフローの割引価値だと言うと、それでやればいいじゃないかという話になりますが、やり出したらきりがないのです。

経済価値に関しては欧州が先行していますが、結構、トライアンドエラーを繰り返しています。QIS(定量的影響調査)は3で終わるはずだったのですが、4までやっています。やはりろいろな問題が出てきたのだと思いますね。この間、欧州の人に聞いたら、5もあるかもしれないと言っていました。

--アクチュアリーを大勢抱えている会社はいいでしょうけど、アクチュアリーがほんの数人という会社もあると聞きますが……。

1人ではまずムリでしょう。それこそ何百万件ものデータを使って、何千通りものパターンで計算しなければならないのですから。正直ベースで言えば、実務家としては、経営レベルでそれを認識してもらって、その大変さを乗り越える準備をお願いしたいと思っています。

五十嵐 勉(いがらし・つとむ)
日本アクチュアリー会 理事長
1976年大阪大学大学院理学研究科修士課程修了。大同生命入社、取締役専務執行役員(現職)。76年日本アクチュアリー会入会、2004年副理事長に就任。07年4月より現職。

(生保・損保特集編集部)

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