ホンダ「N-VAN」の大躍進計画に漂う3つの不安 スズキ、ダイハツに肉薄する思惑はかなうか

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2つ目の不安要素はメカニズム。フロントのボンネット内にエンジンを置き、前輪を駆動するFF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式と、トランスミッションにCVT(無段変速機)を採用したことだ。

FF方式によって低床設計を実現した一方、エブリイやハイゼットカーゴはFR(フロントエンジン・リアドライブ)。つまり、エンジンを前に置き、後輪を駆動させる方式を採っている。商用バンの世界においては、「荷室に積載物を満載したときの登坂路での発進などはFRのほうが優れる」という認識がなされているケースはある。ダイハツ「ハイゼット・キャディー」はFFなので同じだが、FRにこだわるユーザーからの需要は奪いにくいかもしれない。

トランスミッションにCVTを採用しているのも気になる点である。エブリイやハイゼットはステップATとなっている(エブリイはAGSもラインナップあり)。乗用車に比べシビアな使用が前提となる商用車では、より耐久性能の高いスペックが好まれるのである。

現行エブリイバンはデビュー当初はターボ以外には、5MTと2ペダルMT(自動変速可能)となる5AGSのみの設定であったが、2ペダルMTに違和感を覚える声が多く聞かれ、その後2速発進モードを装備するなど改良を行ったが、結果的にステップATとなる4ATが追加設定されている。目新しさよりも耐久性能や道具として扱い慣れたものなどが強く求められるのがこのクラス。タフな使用が続くなかで故障や不具合が頻発すれば、ビジネスへも悪影響を与えてしまうからである。

自慢の助手席ピラーレス構造も、利便性の高さが評価される一方、ハードに使われる軽商用バンとしてのボディ強度に対する不安を感じるユーザーもいるだろう。

3つ目の不安要素は「ホンダの販売力」

最後の不安要素は、ホンダの販売力。アクティ・バンの販売低迷が長続きしたということは、アクティ・バンからエブリイ系やハイゼットカーゴ系に乗り換えられたというパターンも少なくなかっただろう。純粋な軽商用バンを使う法人ユーザーのなかにはリースで使っているケースも多い。

そこにN-VANが新規で食い込むのはフリート販売も含む、法人向け販売より、一般乗用ユーザー向け販売が圧倒的と思えるホンダカーズ店単体での販促活動ではなかなか厳しいようにも思えてしまう。乗用車としてN-VANの購入を検討したユーザーが結局、軽乗用車ナンバーワンの「N-BOX」を選んでしまうようなケースも起こりうる。

以前モーターショー会場で聞いたところでは、20世紀にデビューしたアクティ・バンやバモスは大きな変更もなく生産が続けられたが、その間に隅々まで改良を施し、モデル末期には“モデルの熟成度が高い”として乗り続けるコアなファンもいたそうだ。

“良いクルマ”、“面白いクルマ”というだけでは新車は思うように売れないのは世界共通の話。N-VANはエブリイバンやハイゼットカーゴのように、コテコテのビジネスユースメインのモデルではないようだが、それでも商用車には変わりない。一般個人ユーザーのニーズを掘り起こすのも大切だが、そこにはビジネスユースとしての堅実な需要がベースになければ安定した販売というものは望めない。

独自の商品性はインパクトがあり、「台風の目」になりそうなモデルではあるが、N-VANに、バラ色の未来が約束されたとはまだ言えない。

小林 敦志 フリー編集記者

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こばやし あつし / Atsushi Kobayashi

某メーカー系ディーラーのセールスマンを経て、新車購入情報誌の編集部に入る。その後同誌の編集長を経て、現在はフリー編集者。

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