真備町浸水、50年間棚上げされた「改修計画」 政治に振り回されている間に、Xデーは訪れた

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折しも、バブル崩壊後の景気後退を受け、国は公共事業の見直しを進めていた。建設省は計画の進捗が見られないダムの建設中止を次々と決定した。柳井原堰は幸い中止を免れたものの、事業主体である岡山県の財政状況も厳しさを増すなど、逆風は確実に吹いていた。

結局、関係自治体の間でダムがなくても安定して水を供給できるという結論に達し、2002年秋、柳井原堰の建設中止を中国地方整備局に正式に申し出た。翌年の事業評価にて、中国地整は「中止は確定したが、高梁川ならびに小田川の治水対策を行う必要があるため、今後、早期に小田川合流点の付け替え処理等抜本的な治水対策を行う必要がある」と指摘したものの、小田川の治水対策は事実上振り出しに戻った。

その後、2005年には政令指定都市を目指す倉敷市が、真備町と船穂町を編入合併している。

「被害は軽減できた」

2007年8月に柳井原堰を除いた小田川の改修工事の基本方針が、2010年には具体的な整備計画が策定された。環境アセスメントなどを経た後、2014年にようやく国土交通省の予算がついた。この間、堤防の整備や川底に堆積した土砂の掘削など、小田川の部分的な治水工事は細々と行われたものの、抜本的な工事は今秋から始まる予定だった。その直前に、地域一帯を豪雨が襲った。

国交省の計画によれば、仮に付け替え工事が完了していたら、ピーク時の水位は最大6~7メートル低下し、堤防の外側の土地よりも水位が高まる(洪水の危険がある)時間も、対策前の80~90時間から20時間にまで抑えられていたという。「被害を防げたとはいえないが、軽減はできたかもしれない」(中国地整)。現在は盛り土や土嚢(どのう)による仮復旧の状態。付け替え工事は今後も進めていくが、「計画よりも早めに進めたい」(同)。

一度災害が発生すると対策が急速に進むことは、裏を返せば災害が起こるまで対策は進まないことを意味する。小田川の氾濫対策は、かねて警鐘が鳴らされていた。倉敷市が公表している「第六次総合計画施策評価シート(平成29年度)」では、防災政策に関する市民からのアンケート結果として「高い重要度に見合った満足度が得られていない領域」という評価が下されるなど、住民の中でも災害に対する懸念は根強かった。

それでも、政治や利害対立に揉まれた結果、計画から工事着手まで50年も要した。行政評価に詳しい高崎経済大学地域政策学部の佐藤徹教授は、「どの事業も重要であるから(政策に)優先順位をつけたくない、というのが行政の本音ではないか。(優先順位を付けたとしても)結果を踏まえた予算配分を行う、という仕組みがないと予算には結びつかない」と指摘する。

付け替え工事の完了はおよそ10年後を予定している。その間、豪雨に襲われない保証はどこにもない。小田川の堤防決壊は、防災政策の優先順位を高める必要性をわれわれに示している。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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