闇に葬られた「オウム・北朝鮮」の関係は何か 幹部の死刑を執行、真実が失われた可能性も
しかし、法執行機関が裁判に備えて「証拠」として保管してきたものを外国情報機関に提供することはできず、断ったという。
米陸軍情報部は北朝鮮が絡んでいた可能性に注目したらしい。オウムが製造したサリンに混ざったごく少量の不純物を調査して、製造過程を分析しようと考えたと見られる。
ただ、オウムでの製造方法については、専門家の間で、旧ソ連・ロシア由来の方法、との見方が一般的だった。だが、上九一色村(当時)の教団施設で文献を参考に実験を重ねた土谷正実死刑囚(53)=死刑執行=はこれを否定していたという。
米シンクタンク「新米国安全保障センター(CNAS)」は、オウムでの製造工程から見て、ナチス・ドイツが行った有機リン化合物の合成方式を基にした製造法、との結論を出している。CNASが2011年7月に発表した報告書「オウム真理教への洞察:テロ組織はいかにして生物・化学兵器を開発したか」で指摘している。
CNASは、松本死刑囚の主治医で「法皇内庁」のトップを兼ねていた中川智正死刑囚(55)=死刑執行=からCNASのリチャード・ダンジグ理事長に送られてきた手紙の中に挿入されていたサリン製造装置の略図などを参考にしたようだ。
村井秀夫刺殺事件
オウム真理教と北朝鮮との関係を指摘する情報はいくつか指摘されてきた。
例えば、麻原の下で事実上のナンバー2として、「サリン70トンの製造」といった命令を土谷正実に伝えていた村井秀夫幹部の刺殺事件だ。
この事件は、地下鉄サリン事件翌月の1995年4月23日、東京・南青山の教団総本部の前で、在日韓国人の男が衆人環視の中で実行した。本人は義憤にかられた犯行と自供したと伝えられたが、動機が分かりにくいとする見方が強かった。これについて、当時の公安関係者は、犯行の前夜、犯人の男が都内のある飲み屋で酒を飲んでいたとの情報を漏らしている。
この飲み屋の経営者は北朝鮮系の女性で、拉致事件にも関わっていた辛光洙(シン・グァンス)元死刑囚(現在北朝鮮在住)の「ハウスキーパー(男性の工作員と一緒に生活する女性)」をしていた女性の妹だったという。