夜明け前に終わった「日本の民泊産業」の末路 日本の観光業界とAirbnbという最悪コンビ

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「日本では民泊のイメージは最悪だ。自分の日常生活に外国人観光客を入れたくないという人と、民泊はホテルに代わるすばらしい宿泊場所だと考えている観光客のギャップがあまりに大きい」と、前出の観光庁関係者は話す。

エアビーもこの状況をさほど気にしていないようだ。「同社は今回の件で、どれくらいの人がキャンセルの影響を受けたか明かすことを拒否している」と同観光庁関係者。エアビーによれば、年末までに日本では15万件の予約が入っていた。仮に8割がキャンセルになったとなると、単純計算すれば約12万件がキャンセルされたことになる。

カネでは信頼は取り戻せない

これに対して、エアビーは1000万ドル(約11億円)相当の基金を設立。代わりの宿泊施設の確保や航空券の変更手数料など追加費用の負担を迫られるゲストのサポートをするとしている。これは、キャンセルの影響を受ける人数を考慮するととんでもない金額だ。

だが、カネでは信頼は取り戻せない。「エアビーの世界に対するセールスポイントといえば、エアビーで予約すれば絶対に安心という点でした。今回の日本のスキャンダルによって、そうとも限らないことが世界中に知れ渡ってしまった。同社は今回の件で、世界規模のダメージを受けるのではないでしょうか」と、外国人向けの旅行代理店ジャパン・エクスペリエンスのティエリー・メインセントCEOは予測する。

この状況のまま変化がなければ、日本もいずれ負けることになるだろう。ホテルや旅館の利益を守るために行われた今回の取り締まりによって、レストラン、観光エリアの店、旅行会社、交通機関、外国人観光客のホストとなり得た地方に住む一般の日本人など、観光業に携わる全員がマイナスの影響を受けることになるだろう。

確かに民泊によって外国人観光客が家の近所に増えることは迷惑かもしれない。が、他国がそうしているように、一般の人に迷惑がかからない方法を考えながら、この急成長している民泊産業を日本でもより活性化させる手立てがあったのではないか。

エアビーは世界で最も影響力のあるブランドの1つであり、その利用者は主に若者だ。観光客が落としていったおカネを使って差別主義、偏狭さ、官僚主義を露呈させたことで、日本が世界に売り込もうとした「おもてなし」のイメージが崩れかかっている。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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