シンガポールが米朝会談にかけた警備の中身 東京五輪に生かす最新テロ対策事情

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シンガポールの観光名所で厳重な警戒に当たる警察官ら。米朝首脳会談開催期以外でもこの光景はよく目にする(筆者撮影)

事実、日本国内で報じられることはほとんどなかったが、米朝首脳会談の開催前後でも、テロ関連で要警戒に該当する人物が他国からシンガポールに入国しようとして、空港から強制送還されるなどの事例が継続的に報じられている。水際での対策に、シンガポール政府が日ごろからかなり神経を尖らせていることがうかがえる。

脅威はつねに突然のもの

東京五輪に向けたテロ対策も日本政府は地道に進めているが、 老若男女問わず意識改革を促すカジュアルなテロ対策アプリの工夫 や、高まるサイバーセキュリティ関連の脅威に対する取り組みなど は、シンガポールを参考にすべき点もあるだろう。

国際テロ情勢の権威であるシンガポール南洋工科大学のロハン・グナラトナ教授はこう指摘する。

「シンガポールは世界で最も安全といえるが、つねに攻撃の脅威に晒されている。シンガポールの警備は継続的なものであり、サミットのためだけでは決してない。シンガポールはセキュリティに対してとても多くの投資をし、常日頃からよく考えてきた。それは、脅威はつねに突然のものだからである。

アメリカや欧州では『イラクやシリアのISは終わった』と言われているが、それは違う。ISは確かにイラクやシリアでは困難に陥っているが、アジアやアフリカなどグローバルには広がりを見せており、これらの地域では脅威は拡大している。テロ攻撃はシンガポールでいつでも起こりうる脅威なのだ」

トランプ氏と金正恩氏が会談を行ったセントーサ島にたたずむマーライオン(筆者撮影)

米朝首脳会談で一躍注目されたシンガポールの警備能力、そしてインテリジェンス。これは、二転三転の末に急遽決まった会談に向けて、にわか仕込みで用意されたものでは決してない。空港までの帰り道、IT業界を定年退職したばかりだという60代のタクシー運転手にテロ対策について尋ねると、饒舌にこう返してきた。

「シンガポールは世界一安全なんて言われるけど、それは政府だけでなく私たち市民が積極的に脅威を認識しようとしていることも大きな理由かもしれない。日本だって、オリンピックがあるだろう? 政府に任せておくだけでは、危機管理意識は共有されないんだ」

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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