「テレビ」も「ネット」も年を取ってしまった 糸井重里さんが語るテレビとネット

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──番組がSNSと連動したり、放送への規制を外してネットとフラットにしようと考える力が働いたり、テレビとネットはどんどん近づいています。

糸井重里(いとい しげさと)/1948年生まれ。1979年、有限会社東京糸井重里事務所(現・ほぼ日)設立(2017年に上場)。1980年代、コピーライターとして一世を風靡し、エッセイスト、作詞家など、多彩な分野で活躍。1998年6月6日、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」開設。2002年、「ほぼ日手帳」販売。「やさしく、つよく、おもしろく」を行動指針に、商品の開発販売、店舗・ギャラリー・イベントスペース「TOBICHI」の開設など、活動を広げる。2017年、犬や猫の写真を投稿して愉しんだり迷子を捜したりグッズを作ったりできるSNSアプリ「ドコノコ」を制作(英語版あり)。フィールズ株式会社取締役。株式会社エイプ代表取締役(写真:赤司 聡)

それ、僕がネットの初期に勧めていたことなんです。みんなが発信するのは素晴らしいと思って。でも、実際のSNSでは、自分でフィルターをかけて発言していますね。

喋るという行為は、息を出して声帯を震わせながら出す音の記号の連なりなので、肉体が入っています。でも、キーボードの上で指を動かすだけの発言では、たぶんロジックが変わっている。ツイッターを”生”の意見として捉えてしまうと、誤解が起きると思います。

一方で、それを取り返すかのようにビッグデータが出てきた。そのデータが示すのは”結果”だけで、背景にある『なぜ?』はわからないんです。

SNSとビッグデータの両方を混ぜることで人間の総体がわかると、経営者もテレビの人も思っているんでしょう。でも本当は、解析できないぐらい複雑な思考や言動が積層されたのが人間なんです。

ネットやテレビはしょせん道具で、主体は生身の人間。だから僕は、フィクションと自分の生活実感の世界に戻ろうと思った。それで仲間たちと試合を1つずつやっていく感覚で、ライブのお店(TOBICHI)や古典をテーマにした学校や、アプリの『ドコノコ』などを始めたわけです。

──「ドコノコ」は犬猫の写真投稿サイトですね。

投稿だけでなく、自分の犬や猫の登録もできるアプリです。犬猫の住民票を作るわけだから、迷子も探しやすい。無意識のうちに改良を繰り返されてきた犬猫は、人間がいないと生きていけません。だから、「誰それの家の子」と呼ばれる、所属のある犬猫は幸せなんです。

ダウンロード数は約20万ぐらいですが、英語表記もあるので、フランス、ドイツ、アメリカなど80カ国で使われています。ネットは道具として使っているだけで、ドコノコを支えているのは、生身の愛情です。

希望を持たず、他人と比べて生きている

──バブル前、「YOU」(NHK教育テレビ=当時)で若者に向き合っていた糸井さんの目に、今の若者はどう映っていますか。

他人と比べて生きていますね。ネットでは人の給料や家族写真、住んでいる不動産の相場までわかるから、そういうものと自分を比べてしまう。本来ならもっと幸せになれるはずなのに、と思いながら生きていて、希望を持っていません。

昔ならカネ勘定はカッコ悪いことで、「包丁一本さらしにまいて」自分の腕に頼って生きていく姿がカッコよかった。ところが今は、「『経済』について無知だと、自分のやりたいこともできない」と考える利口な子が増えました。だから「もっと儲けさせてあげますよ」という管理系の人や「コンサルタント」も増えましたよね。

誰もがインターネットでは1票持っているから、ネットに張りついて、語る。その結果、足元を見ながら幸せになることよりも、目先の論争に勝つことが目標になってしまった。本当に誰にでも大切なのは、少しでも希望を持っていられるかどうか、なのにね。

(聞き手・構成:飯田みか)

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