外国人雇用の拡充は「無能な経営者」の甘えだ 生産性向上のチャンスを逃す「愚策」を許すな

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豊富な労働力に恵まれていた時代、不適切に安い最低賃金の下、日本企業は労働者を信じられないくらい安い賃金で使う経営戦略を進めてきました。日本経済の今までの優位性は、「よい人材を安く使える」という構造にあったのです。

人口が増える時代には、人が豊かにならなくても経済は成長したので、それをよしとする傾向もあったでしょう。

しかし、人口が減る以上、事態は一変します。唯一考えられる対策は、企業のビジネスモデルを変えて、ドイツのように国民を豊かにするモデルに移行することです。ただ、それには「よい人材を安く使える」という戦略を変える必要があります。それが「生産性向上」戦略です。

「奇跡的に無能な経営者」の言いなりは危険すぎる

ただ、経営者の目には、ビジネスモデルを変えて生産性を向上させるよりは、減ってしまう日本人労働者の代わりに安い賃金で働いてくれる外国人労働者を使うほうが都合よく映ります。そのため、外国人労働者の受け入れ数の増加を、日本政府に求めています。

移民政策には2つのパターンがあります。ひとつは、生産性向上のための高スキル・高所得の移民を迎える。もうひとつは、減少する低賃金日本人に代わり、低スキル・低所得の移民を迎える。前者は先進国からの移民、後者は途上国からの移民が中心になります。

先程説明したように、日本では低賃金の仕事から順番に減っていきます。経営者としてはその事業を根本から変えるか、途上国から代わりの人を調達して継続するかを選択しなければなりません。

途上国から安い労働者を多数受け入れ、これまでの経営戦略を維持するのは、一見、理にかなっているようにも見えます。実際、コンビニなど一部の業界では、すでにその動きが顕著になっています。しかし、他の先進国での先例を見ると、そのような移民政策は国家にとって大変危険だと言わざるをえません。

企業経営者は、安い給料で働く外国人を受け入れることで生じる負担や悪影響には関心がないようです。高学歴の外国人の場合、経営者にとっても、自分の地位を脅かす競争相手になるかもしれない。けれど低所得で働いてくれる外国人労働者なら、そんな心配はないと言わんばかりです。

低スキル・低所得の移民を迎える悪影響は、価値観の違いによる軋轢や日本社会と隔離したコミュニティが形成されるなど、さまざまです。結局、この負担や悪影響をいちばん被るのは、一般庶民なのです。

さて、冒頭で、余計なことをしなければ、経済の自動調整機能が働いて企業数が減り、人々の所得が大幅に増えるという私の分析結果を紹介しました。つまり、社会保障制度を維持するのに必要な生産性の向上も、余計なことさえしなければ実現されそうなのです。

一方、低所得者の外国人の大量受け入れは、経済の自動調整機能が働かなくなる危険をはらんでいます。だからこそ、この件に関しては慎重に慎重を重ねて、熟慮するべきなのです。

要するに、今の「一億総貧乏」構造を維持・継続するべきか、変えるべきかを議論するべきです。「一億総貧乏」構造を維持・継続するのが正しいならば、低スキル・低所得外国人労働者の受け入れ拡大は正しい政策です。

『新・生産性立国論』にも書きましたが、日本の経営者は、戦略を深く考えていないように見えます。その場しのぎの面が強い印象さえ覚えます。そのため、自身にとって楽で安直な方法を好む傾向があります。

政府はもちろん社会全体としても、「奇跡的に無能な経営者」たちが立てる経営戦略のために、自らの豊かさを犠牲にして、移民の大量受け入れによる負担を受け入れるべきではないのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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