銀座に今も残る、1930年代築ビヤホールの美 360度カメラで「銀座ライオンビル」を探訪

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その室内奥側の大壁画以外にも、ホール内には花や果物、農作物などを描いたガラスモザイク画が計10点ある。これらのガラスモザイク画を製作するにあたっては、なんと4万6000色ものタイルを作成し、そのなかから約400色を精選して用いたのだとか。それぞれのモザイク画は遠目で見ても当然美しいが、近づいて見るとタイル一つ一つの色合いが細やかで、その組み合わせが全体の美しさを演出していることがよくわかる。

そしてこのビヤホールのおもしろいところは、店内で座る位置によってまったく違う空間が楽しめることだ。入口近くの中央通路付近だとホール全体の雰囲気を味わうことができるし、奥側に座れば古代ギリシャ風の大壁画を間近に眺められる。側面には奥まったコーナー状の座席もあり居心地がよさそうだ。

一方で足元に注目すると、床に貼られているタイルも1934年の開店当時からのもの。古い建物、それも多くの人が行き来する商業建築でこのように創建時からの床材がそのまま残っているのはかなり貴重なことだと言えよう。

ビヤホール以外の見どころ

このライオンビルの見どころは、このほかにもいろいろ。建物裏手の上階に至る階段にも昭和初期の意匠が残っている。タイル使い、手摺、窓枠などのレトロなデザインが素晴らしい。

最上階・6階の宴会場であるクラシックホールも戦前に造られた当時のまま。ライオンビルはもともと5階建てで計画され、屋上をビヤガーデンにする予定だったが、会議室として6階に講堂を増築した。

6階の宴会場はアールデコ調(編集部撮影)

こちらは1階ビヤホールとはまったく趣きの異なるアールデコ風のデザイン。幾何学模様のステンドグラスと端正な木目調のインテリアは教会のようでもあり、邸宅のようでもあり。当初この部屋は大日本麦酒株式会社の講堂として使われていたが、現在は50名から150名に対応できる宴会場となっている。

銀座の名所となっているビヤホールライオンだが、この店には、銀座8丁目の銭湯「金春湯」でひと風呂浴びた後に必ず訪れるという方など常連さんも多数。一方でショッピング客や外国人観光客、夜になると会社帰りのサラリーマンなどでもにぎわう。ビヤホールの地下には1000リットルの生ビールタンクが6本あり、常に品質管理が徹底された生ビールが供給されている。ビール注ぎの技にもこの店ならではの流儀があり、指名の入る名人級の注ぎ手も何人かいる。

昼間から夜まで通し営業、そのうえ昭和初期のモダン東京の雰囲気を味わえるという銀座の真ん中のこの場所を自在に使いこなせば、銀座通として一目置かれる存在になれそうだ。

鈴木 伸子 文筆家

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すずき のぶこ / Nobuko Suzuki

1964年生まれ。東京女子大学卒業後、都市出版『東京人』編集室に勤務。1997年より副編集長。2010年退社。現在は都市、建築、鉄道、町歩き、食べ歩きをテーマに執筆・編集活動を行う。著書に『中央線をゆく、大人の町歩き: 鉄道、地形、歴史、食』『地下鉄で「昭和」の街をゆく 大人の東京散歩』(ともに河出書房新社)『シブいビル 高度成長期生まれ・東京のビルガイド』(リトル・モア)などがある。

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