OPEC増産でも原油価格が下がりにくい理由 サウジや米国の本音はどこにあるのか

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しかし、サウジ・ロシア案の水準での増産は、もともと現実的ではなかった。事実、ベネズエラやリビア、アンゴラの生産が予想外に落ち込む中、最近では減産幅が日量280万バレル程度と、当初目標の1.5倍の水準まで減産が進んでいた。そのため、イラクは実質的な増産幅は同77万バレル程度になると指摘している。一方でサウジは、増産を要求していた米国に配慮したが具体的な増産量は示さなかったわけだ。

今回のOPECの決定を受けて、米国のドナルド・トランプ大統領はツイッターで、「OPECが大幅に生産を増やすことを望む。価格を抑える必要がある」と投稿した。しかし、上記のような現実を考慮すると、大幅な減産緩和は実務的に困難であることから、OPECは「減産量を従来目標に戻す」と表明するにとどまったわけである。サウジは今回の決定について、「名目上、世界供給量の1%に相当する日量100万バレルの増産につながる」などと説明しているが、現実的にはこのような増量にはならないだろう。

産油国の中での亀裂拡大も

今回の増産決定の背景には、米国や中国などの消費国による増産要求があった。OPECは総会後、声明で「合意は消費国に配慮している証しだ」としている。さらに「増産を決めたのは、今年に入って原油相場が急上昇したため」ともしている。協調減産の効果に加え、米国のイラン核合意からの離脱表明などを受けて、北海ブレント原油は5月に一時1バレル=80ドルを突破したことは記憶に新しい。

消費国への一定の配慮が必要な状況だったことは確かだ。しかし、総会後の声明文には増産量を具体的に示しておらず、異例の内容だったともいえる。この意味は、結局OEPC内部での意見の相違を完全に埋めることができず、「玉虫色」の決着となったということである。

この加盟国内での「亀裂」の背景にはトランプ大統領への姿勢の違いがある。OPECが増産を決めたのは、最近の原油相場高騰での需要後退懸念が主因だ。だが、もともとはトランプ大統領が5月にイラン核合意からの離脱と対イラン経済制裁を表明したのが引き金になっている。これは、米国によるOPECへの明確な圧力であり、政策への介入ともいえるだろう。

そのため、イランは米国の対応を明確に批判、増産合意に至らないように動いていた。最終的にはイランはサウジの提案を受け入れたが、今や世界最大規模の産油国となった米国が、OPECの政策に口を挟むことを快く思わない産油国が今後増える可能性もある。そうなれば、サウジ・ロシア連合とその他の反米の加盟国間の亀裂がさらに広がり、産油政策の乱れが今後の原油相場にネガティブな影響を与える可能性もある。

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