OPEC増産でも原油価格が下がりにくい理由 サウジや米国の本音はどこにあるのか
繰り返すが、世界の石油需給は逼迫しており、現状のままでは年後半には四半期ベースで供給不足になる。実は世界最大の産油国となった米国内の石油需給も相当逼迫している。石油需要は過去10年で最高水準にあり、ガソリン需要に至っては過去最高を記録している。
意外に思うかもしれないが、市場はこの点にあまり気づいていない。だからこそ、WTI原油がブレント原油に対して1バレル当たり10ドル以上も割安になる状態が続いたともいえる。しかし、今回のOPEC総会を受けて、両者間のスプレッド(差)は6ドル台にまで急速に縮小している。このような動きは、さらに顕著になる可能性がある。
最新の米国内の石油掘削リグ稼働数は前週比1基増の862基となるなど、伸び悩みが顕著になっている。さらにパイプラインの輸送能力不足を背景に、6月は掘削ペースも低下し始めているという。米エネルギー省(DOE)は、米国内のシェールオイル生産は今後も増えるとしているが、現実的にはテキサス州のパーミアン地区のみが増産余地を保有している状態であり、生産コストも着実に上昇している。これらから、これまで割安に放置されてきたWTI原油は65ドルを底値にさらに水準を切り上げやすい環境になっている。これは世界的にも言えることである。いずれにしても、65ドル以下では、どの産油国も厳しい状況に追い込まることは明白だ。
米国は今や世界最大の産油国
さらに米中貿易摩擦が深刻化する中で、中国が米国産原油への関税措置を発表したことで、対中輸出が減少、原油相場への新たな圧力になる可能性が指摘されている。
すでに中国は、米国が中国製品への制裁関税を7月6日に発動した場合、同日から米国産原油、天然ガス、石炭の輸入に25%の関税を適用するとしている。今回の貿易摩擦問題で、エネルギー製品が対象品目となるのは初めてだ。米国産シェールオイルがアジア市場において中東のシェアを奪いつつある中、トランプ政権の「エネルギー支配」政策が、中国側の標的となっている。中国は米国産原油の最大の顧客であり、2017年10月から2018年3月までの半年で日量36万3000バレルを輸入しており、7月には45万バレルまで拡大する見通しだ。関税問題の行方次第では、原油相場も一定の影響を受ける可能性は否定できないため、これらの動きも注視したい。
こうした米中摩擦の深刻化リスクはあるにせよ、OPECは今回の総会をうまくクリアした。さらに米国がイランから原油を輸入している他国に対して、11月から輸入を停止するよう求めているが、これも供給減につながる。こうして見て行くと、WTI原油価格は夏場に向けて1バレル=80ドルを目指す動きとなりそうだ。世界経済が後退し、石油需要が減少するような状況にでもならないかぎり、今後も原油相場は高い水準を維持し続けるだろう。
実際、価格が上昇して困る産油国はいない。サウジの本音は「原油相場は80ドルから100ドルで推移してほしい」だ。また米国は今や世界最大の産油国である。原油価格の高止まりはむしろ大歓迎だ。トランプ大統領の「原油価格は高すぎる」「OPECは増産すべき」などと発言を真に受けて、原油相場は下げていくなどと考えるのは、米国の真の政策を理解していないのと同じだ。当面はOPEC加盟国の産油量の動向に注目しつつも、需給逼迫を背景に原油相場の上昇基調が継続することになりそうだ。
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