危機は収束したが…「東芝問題」が残した禍根 久しぶりに穏やかな株主総会になりそうだ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

こうして見ていくと、第三者割当増資も自己株買いも判断としては批判されるべきものではない。巨額の損失で債務超過に転落した時点で仕方がなかった。

釈然としないのは、巨額損失を生んだ原因にしっかり向き合い、本当に反省しているのかがわからないからだ。一連の不正会計(もちろん粉飾と呼んでもいい)について表面上は反省し、組織改革も進めている。

しかし、これまでも何度か指摘したことだが、(大甘と評される)第三者委員会報告書で不正の「関与者」と認定された人物や、不正隠しを図ったとメディアで報道された人物が今回も取締役候補(再任)に名を連ねている。東芝の不正会計に対しては、証券取引等監視委員会が刑事告発もしていない。

S&W買収の判断は総括されていない

1兆円超の損失を招く決定打となった米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)による建設会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)の買収判断の総括も行われていない。WHが手掛けていた原子力発電所プロジェクトの建設費用の超過をめぐって訴訟になっていた中、超過費用リスクをWHが丸抱えすることになった原因がS&Wの買収だ。

このとき(2016年3月期)の損失認識と会計処理が後に問題となり、2017年3月期の決算遅延を招いたという意味でも東芝の企業価値に多大なダメージを与えた問題案件だ。

結局、WHや東芝のどのレベルまでがS&W買収リスクを認識していたのか、経営陣はなぜ見抜けなかったか、などについて検証はなされていない。状況を認識していたに違いない志賀重範元会長やWHトップを務めたダニー・ロデリック氏らの責任もウヤムヤになっている。

記者が昨年6月の記者会見で「S&W買収の真相を究明し対外説明すべき」という質問をした際、綱川智社長は「はい」と答えたが、この5月の記者会見で車谷会長にした同じ趣旨の質問は見事にスルーされた。

もう一つ、嫌みを付け加えるならば自己株買い方針の発表タイミングだ。

東芝側は、投資ファンドの圧力の緩和を狙ったわけではなく、重要な資本施策なので株主総会前に公表したまでという姿勢だ。だが、東芝は昨年10月24日の臨時株主総会から1カ月も経たずに第三者割当増資を発表している。「重要な資本施策は株主総会前に公表する」と説明するなら、株主総会で第三者割当増資をきちんと説明すべきではなかったか。

危機のさなかの臨時株主総会でさえ荒れることはなかった。今回も平穏に終わるはずだ。それでも諸問題を終わらせていい理由にはならない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事