危機は収束したが…「東芝問題」が残した禍根 久しぶりに穏やかな株主総会になりそうだ

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還元増を求める投資ファンドの圧力があったことは事実だ。一部は積極還元がなければ車谷暢昭会長兼CEOの取締役就任に反対する意向を表明していた。このため、車谷会長の就任を承認させるための自己株買いに見えなくもないが、自己株買いの判断そのものはおそらく正しい。

リスクの塊だった米国の原子力事業から撤退。家電、パソコンなど赤字を垂れ流す事業もなくなった。巨額の設備投資を必要とする東芝メモリを切り離したことで(当面は持ち分法適用)、今後の資金需要、必要な資本額ともに従来よりも縮小する。

大量の自己株買いを決断した車谷暢昭会長兼CEO(右)と綱川智社長兼COO(5月の決算発表時、撮影:尾形文繁)

2兆円の株主資本で一般に望ましいとされるROE(自己資本利益率)8%を出すには1600億円の純益が必要になる。メモリが連結から外れた後、インフラ中心の事業でこれだけの利益を生み出すのは不可能に近い。

資金を活用して利益成長を図るのが正道かもしれない。M&A(企業の合併・買収)という手法もある。ただ、無理な買収が巨額損失を招いた過去を考えれば、M&Aはやりにくい。東芝は「(M&Aに関しては)特に慎重に対応することとしています」(自己株買い方針のリリースから)としている。

7000億円という金額が適正かはともかく、自己株買いで余剰資本を株主に返すという決断は至極まっとうだ。

判断は正しいが、釈然としない理由は

それでも6000億円もの第三者割当増資からわずか半年後に、7000億円の自己株買いが打ち出されたことに釈然としない思いは残る。

というのも、1株262.8円で22億8310万株という増資の条件が、あまりよろしくなかったからだ。発行価格は直前株価の90%という有利発行に当たらないギリギリの水準で、希薄化率は54%に達する既存株主の犠牲が大きい増資だった。仮に昨日(6月26日)の終値(325円)で7000億円の自己株買いをすると約21億5400万株しか吸収できない。

「第三者割当増資をやるべきではなかった」などと言うつもりはない。前述のように6000億円によって税金を圧縮できたことで、1兆円近い株主資本の押し上げ効果を得られたからだ。費用対効果は抜群であり、近年の東芝経営陣の判断では出色と評価してもいい。

結果的に投資ファンドが大儲けする(した)ことになるが、これも仕方がない。彼らのリスクテイクのおかげで東芝も既存株主も救われたからだ。株価上昇を結果と見れば、東芝も株主も損を被っていない。

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