ソフトバンク、驚きの鉱山出資に込めた野望 リチウムイオン電池の原材料めぐる争奪戦

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同社は現在、メガソーラーなど大規模な自然エネルギー発電事業を進めている。ただ自然エネルギーは発電量が天候などに左右されるため、コントロールが難しいという弱点がある。そうした自然エネルギーの不安定性を解決する装置として期待されているのが、電力が余ったときに蓄電し電力が不足したときに放電する蓄電池の存在だ。

また、同社は米ライドシェア最大手のウーバー・テクノロジーズなどに出資する。EVシフトが進むとき、それら企業の車載用電池の需要も見込める。

自然エネルギー発電事業を行うSBエナジーの社長でもある三輪氏は、「これらの事業では、(リチウムを使う)バッテリーの価格競争力や性能が非常に重要。川上となる原料部分をボトルネックにはしたくない」と話す。

ソフトバンクは、ネマスカから購入したリチウムを電池メーカーに供給する。そこで製造してもらった電池を自社グループで使用する考えだ。

孫さんはおカネを持っているから投資できた?

取材で総合商社大手の関係者が示し合わせたように口にしたフレーズがある。それは「投資コストが見合わないのでうちは手を出さない」「孫さん(孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長)はおカネを持っているから投資できた」というものだった。

詳細は週刊東洋経済の本特集に譲るが、ネマスカのように鉱山からリチウムを生産するタイプはコストが高くつく。米国地質調査所(USGS)のデータによると、2017年にリチウム(炭酸リチウム)価格は1.6倍に上昇した。2013年以降でみても今の価格は別次元の高値であり、鉱石からリチウムを生産してもコストに見合うといわれる。

しかし、過去起きたように大手企業の生産拡大でリチウム価格が下がれば、鉱石から生産するタイプの採算は厳しくなってしまう。

一方、三輪氏は「名前が売れてないけど『こんないい場所が』という鉱山を探し当てた。高値づかみにならないよう条件面も熟慮した」と反論する。

さらに車載向け電池の数量増など需要サイドで起きている変化を構造的なものだととらえると、「今の価格が以前のように下がるとみるのがいいのだろうか」と疑問を呈する。三井物産で資源・エネルギー開発投資案件を長く経験してきたこともあり、相場観には自信があるようだ。

その見通しが当たるかどうかはさておき、今回の出資にはソフトバンクの持つしたたかな面もみえる。同社として最初の資源投資案件ということもあり、出資金額を100億円以下に抑えた点だ。三輪氏は「出資して業界のインサイダー(内部者)になることで市況感、需給感を知ることが重要」と、その狙いを明かす。

ネマスカの案件をくさびとして打ち込み、そこで知見を蓄えながらほかの資源への投資を加速していく――。このプランが現実のものとなれば、ソフトバンクグループが資源分野で巨大投資家になる日はそう遠くないのかもしれない。

『週刊東洋経済』6月30日号(6月25日発売)の特集は、「ビッグデータ、EVシフトで需要爆発 怒涛の半導体&電池」です。
奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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