かけ声で終わる「同一労働同一賃金」の残念さ 最高裁判決では賃金格差は埋まらない

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今回の訴訟では最高裁は、格差は妥当な基準を欠いているとし、企業に対して各労働者に77万円を支払うよう命じた。しかし、細かい事情が異なるほかの事例において、今回の事例がどれだけ判例として機能するかは定かではない。「それぞれの裁判において、裁判所が賃金格差の妥当性をどのように判断するか予測するのは困難」と柳澤弁護士は説明する。それが、影響は漸進的なものだとする理由のひとつだ。

理論上は、非正規社員であれ、女性であれ、同一労働に対して同一賃金を受ける権利がある。しかし、行使できない法的権利はとうてい権利とはいえない。法の侵害を調査したり、企業を訴えたりする政府機関もない。労働基準局は、時間外勤務手当の不払いや過労死などの問題は調査するが、賃金格差については調査しない。

政府は「ネガティブリスト」を採用せよ

さらに日本では、ほかの種類の裁判については集団訴訟が認可されつつあるものの、この手の問題の集団訴訟はない。このため、各被害者は、公正を求めるために、多くの時間と資金を費やさなければならない。法を犯した企業に課される罰金はないため、抑止となるものはない。結果として「この最高裁の判断が諸企業の慣例に大きな変化を起こすことはなく、単なる漸進的な変化にしかならないだろう」と企業側を代弁するある著名弁護士は話す。

柳澤氏も基本的には同意しているが、次のように付け加えた。「もしある企業が、無期限契約ではなく期間限定契約であるという理由だけで自動的に賃金を少なくしてきたのであれば、その格差に正当な理由があるかどうかを見直す必要に迫られるだろう」。

こうした中、政府は「ネガティブリスト」方式を採用して法律を書き直すことが可能だ。たとえば、「〇〇を例外として賃金格差のある企業はすべて違法である」とし、〇〇の部分には年功序列体系や明確な成績基準、教育レベルなど、例外の対象となるものを具体的に明記するのだ。

現在のところ、これは個々の裁判官の考え方に委ねられている。たとえば6月1日の別の判決で最高裁は、企業が従業員を、たとえば60歳で強制的に退職させ、非正規社員として低い賃金で、同じ職に改めて採用するのは妥当であるとした。定年退職制度は企業が人材コストに上限を設けるためにデザインされたものであると最高裁は主張した。実際に企業は、賃金を下げることが許されないのであれば、これほど多くの退職者たちを雇うことは不可能だとしている。

柳澤弁護士は基本的にこれについては同様の意見を持っており、この判決は大きな影響を及ぼすことになると見ている。実際、これは60歳を過ぎても働き続けている1300万の人々に影響するのだ。彼らの賃金や働く機会は、気まぐれに感じられる法制度によって決定づけられているのである。

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