かけ声で終わる「同一労働同一賃金」の残念さ 最高裁判決では賃金格差は埋まらない

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たとえば2008年のパートタイム労働法に関する裁判所の判決を見てみよう。この法律は、無期限契約のパートタイム労働者に対して、同一労働には同一賃金を支払うことを企業に義務付けた。しかしこの法は執行されていない。当局はこれを企業の義務ではなくガイドラインとして扱う傾向にある。誰でも工場へ行き組み立てラインを見れば、隣に並んで同じ仕事をしながら正社員と非正規社員が別々の制服を着ているのがわかる。そして非正規社員に対しては、平均で40%低い時間給が支払われている。

これは違法ではないのかと、企業側に立つある弁護士に筆者が尋ねると、この弁護士は「すべて何をもって同一労働と呼ぶのかによる」と答えた。たとえば、雇用主が正社員の職務内容に時間外労働の可能性といった特別の義務を加え、職務は同一でないと主張することが考えられる。実際、この弁護士が実質的に担当したすべての裁判で、裁判所は雇用側に有利な判決を下してきた。

1つ例外があるだけで同一労働にならない

1つだけ、例外的に仕事内容は同じであるため、企業は賃金格差を埋めなければならないという判決を裁判所が下した。このとき、この弁護士のクライアントは彼のところへやってきて、微調整した仕事内容を弁護士に吹き込み、「現時点では仕事は同一ではない」と主張。従業員が反駁したいのであれば、再び裁判を起こさなければならないように追い込んだ。

要するに、法律がこれほど曖昧であるために、裁判所は慣習的に雇い主側の主張を取り上げる判断を下してきたのだ。だからこそ、今回のトラック運送会社の裁判で初めて最高裁が非正規社員側に立った判決がこれほど注目されるのである。

雇用側は、非正規社員はフルタイムの正社員に比べて経験、教育、そのほかの事情により生産性で劣るため、賃金格差があることを「妥当」だとしている。裁判所はこれまでこの主張を受け入れる傾向にあった。

しかしこれは、慶応大学の鶴光太郎教授による経済産業省の経済産業研究所(RIETI)報告によって反駁された。同じ企業に10年以上勤めてきたパートタイム労働者でさえ、その3分の1がより低い賃金のままである。「パートタイムとフルタイの労働者間に存在するおよそ30~40%の賃金格差は、労働者の特質やほかの正当化要因では説明できないものであり、差別要因は存在し続ける」と鶴教授は指摘した。

こうした賃金格差は、企業が望むから存続しているのである。企業にパートタイム労働者を雇う理由を尋ねた2010年のアンケートでは、大多数が労働コスト削減のためと答えた。安倍首相と自民党はこれら雇い主たちの声に耳を傾けているのだ。実際、2015年に安倍政権が派遣労働者の活用を拡大する法案を国会で通したとき、安倍首相と自民党は、同一労働同一賃金保護を派遣労働者に適用するというこれとは逆の修正案を骨抜きにした。

これら一連の決定の重大さは、賃金格差を被る労働者たちの生活水準の問題だけにはとどまらない。消費者意欲が今ひとつ盛り上がらないのは、人々が節約したいからではなく、収入が低過ぎるからである。非正規社員の賃金を上げることは、最終的には自社製品やサービスの売り上げが伸びるといった形で企業側にもメリットがある。そしてこれは、安倍首相にとってアベノミクスを成功させるすばらしいチャンスでもあるのだ。

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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