長時間労働を強いられた職場もあった。2週間休みなしや、深夜から翌日夕方までの連続勤務はざら。一度出勤中に過労で倒れ、救急車で搬送されたことがあった。このときは店長から携帯に連絡があり、「早く来い。救急車で連れてきてもらえ」と怒鳴られたという。
見かねた救急隊員が携帯を取り上げ、逆に店長をしかりつけたので、コウキさんは病院で治療を受けることができた。しかし、後日、店長から、この日は急きょ派遣スタッフで穴埋めをしなければならなかったと言われ、「罰金」2万円を請求された。
私が、労働基準監督署や個人加入できるユニオン(労働組合)に相談しなかったのかと尋ねると、「そういう方法があることを知りませんでした」という。
「おカネがなくても入居できます」
これ以上、地元にいてもろくなことがない、環境を変えたい――。20歳を過ぎ、そんなことを思っていた矢先、SNSで都内のあるゲストハウスが「おカネがなくても入居できます」という旨の宣伝をしているのを見つけた。着の身着のままで足を運ぶと、管理人から「まず生活保護を受けてください。それが入居の条件です」と説明された。
言われるまま、自治体の窓口で生活保護を申請。担当者からは、申請までの経緯を尋ねられたものの、働くよう促されることなどはなく、支給はすんなりと決まったという。
コウキさんはしばらく月十数万円の生活保護を受け、ゲストハウスはそこから家賃を徴収した。しかし、支給日に窓口で出会うのが高齢者や身体の不自由な人が多いことに気が付き、しだいに健康な自分が生活保護を利用することに「うしろめたさ」を覚えるようになったという。このため、コンビニで働き始めたが、過重労働のせいで体調を崩して辞めた。
失業中、ゲストハウス側から「ハウスの清掃をするなら、家賃を相殺してあげる。ただし、役所には内緒にするように」と言われた。違和感を覚えながらも、従ったという。
典型的な貧困ビジネスである。
ホームレスや失業者に声をかけて生活保護を申請させ、法外な家賃や食費を搾取する――。コウキさんが東京に移ったちょうどその頃、こうした共同住宅やゲストハウスが社会問題になり始めていた。
私がそう指摘すると、コウキさんは戸惑うようにこう言った。
「生活保護の仕組みも意味もよくわからなかったんです。初めてのことだったし。あのときは、ずいぶん簡単におカネがもらえるんだなと驚きました。今考えてみると、申し訳ないと思います。でも、積極的に貧困ビジネスの片棒を担いだ、というわけじゃないし……」
コウキさんはこれまで恐喝や放火未遂などで、少年院や刑務所に複数回にわたって収容されたことがあるという。バイト先の上司から受けたパワハラの仕返しにカネを脅し取ったり、給料天引きに嫌気が差してコンビニを辞めた日、むしゃくしゃして段ボールに火を付けたり――。「今は後悔と反省しかありません」。
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