愛甲猛の転落生活をトコトン支えた妻の献身 人気プロ野球選手の光と影をともに見てきた

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夫・猛さんは、“愛甲猛”甲子園のアイドルとして日本中に知れ渡った名前の重さに苦しんでいた。そして、妻・佐知子さんは意を決し、夫にこう言った。

「もうあなたは、プロ野球選手の“愛甲猛”じゃないのよ! でも“愛甲”という名前からは逃れられないの。その名前を背負って新しい人生を踏み出さないとダメじゃない」(佐知子さん)

愛甲猛という名前から、逃げてはいけない……。そんな妻・佐知子さんの思いを受けて、夫・猛さんは、再出発を決意した。

猛さんがやっと就いた新たな仕事は、健康食品の営業販売。しかしそれは能力ではなく、愛甲猛という名前があるからこその採用だった。

上司から「“愛甲”の名前を使って、ジャンジャン売ってきてくれ」と言われ、必死に仕事に取り組む日々。しかし、営業先のお客様から

「筋肉増強剤使っていたような奴からサプリメントなんて買えるかよ!」

「有名人だからって仕事をもらえると思うなよ」

など、心無い言葉を浴びせられた。

何をしてもついて回る“愛甲猛”という名前。結局、営業販売の仕事は辞め、その後、何をやってもうまくいかなかった。

夫・猛さんに定職がないことは、家計を直撃した。妻・佐知子さんは少しでも家計の足しになればと、週5日、飲食店で出す総菜の仕込みのパートを始めた。

「俺やっぱり野球が好きだ」再び、野球で夢を持った夫

佐知子さんのパート収入に頼っている中、猛さんの元にある仕事の依頼が舞い込んだ。それは月1回、野球に関するコラムを書くという内容だった。

新人ライターへのギャラは高くなく、取材や執筆に掛かる時間と労力を考えると、決して割りのいい仕事ではなかった。それでも猛さんは、佐知子さんに「俺、やっぱり野球が好きだ。野球の仕事がしたい!」と訴えた。

それを聞いた佐知子さんは、嬉しそうにうなずいた。そして猛さんは、コラムの仕事を始め、野球に関する仕事のオファーが、徐々に舞い込むようになっていった。

そんな猛さんは今、バッティングセンターの片隅を借りて、少年たちを集め野球教室を行っている。「この子たちが甲子園で活躍してくれることを願って、自分がそれを解説できるようにっていうのが今一番の僕の夢ですね」(猛さん)

そして昨年、愛甲夫妻は結婚30周年を迎えた。結婚30周年の節目に、夫・猛さんが妻・佐知子さんに初めて手紙を書いた。

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