映画「ウインド・リバー」を作った本当の狙い サスペンス形式で「アメリカの闇」を描き出す
荒れ果てた大地に移住させられた彼らは、アメリカ人との同化政策により、彼ら特有の文化を破壊されるなど、多大なる苦しみの歴史を余儀なくされることとなる。1924年には市民権を手に入れたものの、彼らの貧しい暮らしは改善されず。この地域では、現代でも貧困やドラッグ、アルコール中毒、暴力など慢性的な問題を抱えたままとなっている。
何より恐ろしいのは、この保留地が社会から隔離された空間である、ということだ。広大な辺境地域となるこの地では、警察を呼ぶのも、病院に行くのも数十分、あるいは数時間はかかってしまうことはザラ。マイナス数十度という極限の冷気は、しっかりとした防寒対策を施さないと容赦なく肺を凍らせ、破裂させてしまう。そんな社会から隔離された極限状態の中、人は倫理を保ち続けることができるのか。アメリカが抱える暴力の連鎖は断ち切ることができないのか。この映画が呼びかけるテーマは非常に切実だ。
本作のメガホンをとったテイラー・シェリダンは、メキシコ国境地帯での麻薬戦争に迫った『ボーダーライン』、銀行強盗を繰り返す兄弟とテキサス・レンジャーの攻防を描いてアカデミー賞脚本賞にノミネートされた『最後の追跡』の脚本を手掛け、世界的に評価された気鋭のクリエーター。
そして監督デビュー作となった本作については、『ボーダーライン』『最後の追跡』と並べて「現代アメリカの辺境を探求するひとつのテーマに沿った三部作の最終章」と位置づけ、「この作品は成功しようが失敗しようが作らなければならなかった映画だ」とその切実さを明かしている。
口コミで評判、上映館は4館から4週で2000館に
そして、「これまでわたしが脚本を手掛けたすべての作品でやってきたように、親密な人間関係とドラマが予期しない形で展開される緊張感とアクションで、観客の目をくぎ付けにすることを目指した」とシェリダン監督は語る。その言葉を裏付けるとおり、息つく間もないほどの緊張感あふれるドラマ、アクションが展開され、謎解きサスペンス映画としても極上の作品となっている。
全米でも、当初はわずか全米4館での限定公開だったが、作品のクオリティの高さがSNSや口コミで広まり、公開4週目には2000館以上に上映館が拡大。全米興収ランキングでも3位にまで上り詰め、その後も6週連続トップテン入りを果たすロングラン・ヒットを記録した。
雪に閉ざされた大自然の風景をダイナミックにとらえた映像に圧倒されるが、この地で日常の光景となっている人の営みは、あまりにも濃密で、むしろ息苦しさを感じさせるほどだ。
そんなコントラストをも丁寧に描き出したシェリダン監督の力量は非常に高く評価されており、2017年に開催された第70回カンヌ国際映画祭では、「ある視点部門」の監督賞を獲得している。カンヌでの上映の際は、およそ8分間にもおよぶスタンディングオベーションが沸き起こったという。
社会から取り残され、“忘れ去られた人たち”に対する真摯なまなざしが印象的な本作。そういったことが見過ごされがちな今だからこそ、この映画の存在意義は大きくクローズアップされることになるはずだ。
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