貧困の子を救う「子ども食堂」が抱える課題 安心・安全な場所にするために必要なこと

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湯浅:「この寄付は、子どもにそのまま手渡される食品になります」というものだったらわかりやすいのですが、「保険」って少しわかりにくいですよね。「基盤整備をしっかりとやることが、ひいては子どもたちに利益をもたらすことなんだ」「そういう安心感を育てることが健全な運営に結び付いて、それが子どもに及んでいくことなんだ」ということを理解してのコメント、反応というのは、「ああ、伝わったんだな」と非常にうれしいですね。「こういう基盤整備は大事ですよね」とか、「保険料は気になっていたんです」とか。

自発性と多様性を持って続けていけるように

:こども食堂の取り組みの価値が、いろんな形で各地で広まってきたのかなと感じます。こども食堂のアクションは、現場からそれぞれの思いで立ち上がった草の根的な広がりがここまできたという象徴ですよね。

©︎熊本県熊本市「こどもキッチンブルービー」

湯浅:すばらしいと思います。こども食堂の数は、2年間で約2000カ所増え、7倍になりました。きっかけは人それぞれあるのだと思いますが、「きっかけがあったら動く」という人がこんなにもいたんだということに驚きますね。日本社会の底力を感じます。

:一方で、「担い手の育成」の点はいかがでしょうか。地域によってはけんかして解散した場所があったり、一方で、あるところでは指導力のある人が運営し「プロの食堂だな」と感じる場所もあったりと、クオリティや技術にはけっこう差があると思います。

湯浅:おっしゃるとおりです。こども食堂は自発的に始められているものなので、それが「悪い」とは誰も言えない。でも実際には、その自発性と多様性はすばらしいけれど、だからといって、質が良くないものは放置しておくわけにはいかない。そういう中でバランスを取っていくのが大事です。しかし、中には子育てが終わったおばあちゃんが2人で始め、自宅で地域の子どもを集めているというところもあります。そこは、いろんな意味でしっかりしていないかもしれませんが、そういう人たちがやり続けられるようにしたい。そういうところもキャッチアップできるように応援したいというのが、今回のプロジェクトの目的の1つでもあります。

:クラウドファンディングの呼びかけ文にも書いていらっしゃいましたが、ちょっとしたトラブルが発生しただけで、逆に今度はたたかれてガラガラと崩れ落ちる。それだけは避けたいんだと。

湯浅:そこは大きいですね。これまでいろいろと失敗も経験してきましたので。「こども食堂が何年かかけてこんな風に育つと良いな」「こんな風に社会に受け入れられていけば良いな」と思って動いていても、一度食中毒などが起これば、やはりそれはマスコミにも大きく取り上げられるだろうし、もしかしたら国会で質問も受けて何か規制が始まるかもしれません。そうなると、「こういうものはこども食堂と名乗って良いけれど、こういうものはダメ」という線引きが行われて、今までの自発性と多様性が一気に失われてしまう。こういうことが今年起こってもおかしくない。そうなると、私が大事にしたいと思っている、おばあちゃん2人で始めたような小さいところほど、「あなたたちはやっちゃダメ」と言われるようになる。結局その人たちは、「ああ、やっぱり自分たちが手を出せるようなものじゃなかったんだ。最初から始めなければよかったんだ」と思って今後生きていく。そういう世の中はだんだん活発ではなくなっていくと思うので、そういうことが起こる前に整えていきたい。事が起こってしまってからでは遅いので、そこはとても危機感を感じています。

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