貧困の子を救う「子ども食堂」が抱える課題 安心・安全な場所にするために必要なこと

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:そういう思いを強くされていった要因は何でしょうか?

湯浅:私の出発点は、ホームレス問題です。一人ひとりのホームレスに人生がある。その人たちと付き合う中で、欠点もいっぱいある人だけど、いいところもあって、その人の人生を知れば知るほど、ある意味で敬意が生まれてきました。それぞれ一生懸命に生きてきた中で、失敗もさんざんしてきて、ある人はうまくいき、ある人はうまくいかず。そういう中で、その人たちも含めて作っているのが世の中で、私はその人たちも含めて自分の力を100%発揮できるような社会にしたいと思っています。何年か前に『ヒーローを待っていても世界は変わらない』という本を書いたのですが、これは誰かに何とかしてもらってできることではない。やはり自分たちが、面倒だけれど意見を交わして擦り合わせて、もちろん全員一致なんて起こらないけれど、いろいろと話す中で「ここまで話して別の結論になるんだったらしょうがないか」という納得感が生まれていく世の中が、やはり多くの人にとって生きやすいし、活力も生まれるのではないかと思っています。ホームレスの人たちは「ダメな人」だと思われてしまいますが、私はその人たちの中にあるいろんな力を見てきたからこう思うのかな。さかのぼると、うちの兄も障害者で。できないことを数え出せばすごくいっぱいあるけれど、できることもある。だから、その人のできることに注目する社会を作りたいですね。

:メディアが変わるには、「マスコミが変われ」と言っていても変わらない。やはり一人ひとりがそれぞれ発信できるように変わっていかないとダメだろうなと思っているので、聞いていてすごく共感します。100人いれば100通りの専門家ですよね。

湯浅:そう思います。しかもこの時代は、一人ひとりがFacebookやTwitterなどのSNSで言葉を持ったので、混乱も生まれてはいるけれど、基本的には本来一人ひとりが持っている1票と同じように、今まで沈黙していた人たちがしゃべるようになった。これは受け入れるべきことだと思います。あとは、その人たちも含めて、どう社会全体の底上げをしていくかということが大事なのではないかと思いますね。

地域の集まる場で気付き合う「共助」の形

:今回の取り組みを機に、最終的には子どもたちが支えられ、子どもを育てている親御さんなどの大人たちもおそらく支えられているでしょうね。今後、こども食堂がどんな取り組みに発展していけばいいと考えていますか? ゴールを教えてください。

湯浅:私は、こども食堂がもっと社会のインフラになればいいと思っています。そういう意味では、まだ質、量ともに足りません。こども食堂は約2300カ所まで増えましたが、小学校は約2万校あります。小学校の数と比べると、まだ10分の1。子どもの立場に立てば、私の小学生時代を思い出してみても、小学校区を超えるというのはけっこう遠くへ行くというイメージだったので、やはり小学校区に1つこども食堂があってもおかしくない。そういう意味では、まだまだ数も足らないし、また、質ももっと安心できるものにして、多くの人が気軽に立ち寄れる場所になる必要があります。まだ、こども食堂は「特別な人がやっている、特別な場所」というイメージなんです。だから多くの人が「自分が行っていいのか」と感じてしまう。でも「自分が行っていいのか」と思われているうちは、インフラとは言えないですよね。道路歩くときに、「私はこの道を歩いていいのだろうか」と思う人はいませんからね。そういう意味で、「自分も行っていい場所」「ちょっと行ってみるかと気軽に行ける場所」になるくらい社会の中に浸透していけば。地域の人が交流し、その交流の中から子どもが「体験」を得る、あるいは、子どもが虐待などのサインを出している時は誰かが気づく、そういう場所になると、もっと生きやすい世の中になるのではと思います。それがゴールのイメージですね。

:そうですね。虐待ひとつとっても、児童相談所なのか、警察なのかという前に、ほかにもセーフティネットがあるはずですしね。

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