「もう1つの要素は音のすばらしさですが、音の良しあしによって楽器の値段が変わることはありません。いちばん重要なことは、彼が生きていた時代から今に至るまで、ほとんどすべての時代のヴァイオリンの名手たちが、彼の楽器を好んで使ってきたという点で、そこにかけがえのない価値があります。つまりその人気に比しての希少性です。
需要と供給を考えれば価格が上がっていくのは当然です。その意味では、ストラディヴァリウスを買うことは、変な投資よりもずっと確実な投資です(笑)。ストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェスはまさに安全資産。絵画で言えばレオナルド・ダ・ヴィンチ級だと思います。
ダ・ヴィンチの中でも『モナ・リザ』や『最後の晩餐』のような特別な絵があるように、ストラディヴァリウスにもそのような作品が存在していて、今でも20億円を超える値がつけられます。まさに美術工芸品としての価値ですね。なぜ現代の技術で同じ音が作れないのかとか、寸分違わず同じものを作ればよいのではと言われることがありますが、そういう問題ではないのです」
最高の楽器にして至高の美術工芸品
以上が中澤社長による説明である。
なるほど、ストラディヴァリウスは美術工芸品であると考えれば、その価格の高騰ぶりも理解しやすい。長い歴史の中で大切に受け継がれてきたからこその価値という意味なのだろう。
この貴重なストラディヴァリウスが21挺もそろうという、かつてないタイプのイベント「東京ストラディヴァリウス フェスティバル 2018」の開幕が目前だ。
「通常この手のイベントでは演奏者が主役ですが、今回は目線を変えてヴァイオリンを主役にしようと思いました。そのヴァイオリンの中でも圧倒的に知名度の高いストラディヴァリウスを取り上げることによって、クラシックファン以外の方にも興味を持っていただけると考えています」とは、今回のイベントでキュレーターを務める前出の中澤創太氏。
イベント全体は「コンサート」と「展覧会」の2本立てで行われ、7月にスタートするコンサートでは、名手たちによるストラディヴァリウスの聴き比べやレクチャーなども行われる。一方、秋に森アーツセンターギャラリーで開催される「展覧会(ストラディヴァリウス300年目のキセキ展)」では、世界中から集められた選り抜きのストラディヴァリウス21挺が展示されるほか、展示楽器を使った館内コンサートも毎日行われるというのだから楽しみだ。
興味深いのはその楽器の内訳で、ヴァイオリンのほかにチェロとヴィオラが1挺ずつ。さらには世界に5本しか存在しないという貴重なストラディヴァリ製作によるギターの中でも唯一演奏可能な状態の1挺(1679年製の“サビオナーリ”)が持ち込まれる。ヴァイオリンの聴き比べはもとより、ストラディヴァリウスのギターの音色にも心惹かれる。
今回のイベントでは、ストラディヴァリウス誕生の地クレモナの工房も再現され、ヴァイオリン製作のデモンストレーションも行われるという。いつも革製の前掛けを身に着け、寒い日には白い毛糸の帽子をかぶって、朝から晩までヴァイオリンを作り続けていたと伝えられるストラディヴァリ。
彼が過ごした300年前のクレモナの風景に思いを馳せる。そんな時間に出会えることを期待したい(イベント公式サイトhttp://tsf2018.com)。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら