エステーとダイハツのCMが心をつかんだ理由 5月後期作品別CM好感度ランキング
先進的な機能を訴求するにしては、なんとも愛嬌のあるCMだ。増田のくるくるしたパーマ頭やチャーミングな演技にもつい笑みがこぼれてしまう。軽トラックという商品カテゴリのCMなら、これくらい気負わないつくりが違和感なく見られるし、CMとしては長い30秒という尺で構成されているのも、ターゲット層である中高年に無理なく情報が伝わった要因だろう。
『ハイゼット』ブランドでは昨年11月から1月まで軽商用車『ハイゼットカーゴ』のCMを展開。CMキャラクターには松山ケンイチを起用し、その双肩に家族の未来を担った“働くヒーロー”を描いた。“ヒーロー”と言っても人の命を救ったり、悪と戦ったりはしない。頭にタオルを巻いた作業着姿の松山が仕事に向かうシーンや、休憩中に工事現場で弁当を食べながら同僚たちと話すシーンなど、毎日大切な家族のために汗を流す父親を主役に据え、商品ターゲットにわかりやすくアプローチした。軽トラックにしても軽商用車にしても商品が輝くのは“働く現場”だ。ハイゼットブランドは作業車にとって最適な表現を採用したのではないだろうか。
自動車に限らず、既存の商品に新しい機能がプラスされると、今までとの違いや競合商品との差別化を最大化して伝えたくなるのは企業の性だろう。それどころかたとえ新機能がなくても、少しでも自社の商品を「よく見せたい」と思うのも当然だ。
しかし気を付けたいのは、消費者にとっては微差に過ぎないことを針小棒大に描くと“消費者不在”のディスコミュニケーションに陥るということだろう。CMは誰のためにあるのか。もちろん企業活動のために制作され放送されるが、当然ながら忘れてはいけないのは、消費者に向けて発信された広告の評価は、受け手である消費者に委ねられるということだ。
人の心を動かすのは「本当のこと」
技術の進歩により、広告でできること、求められることの幅は年々広がっているが、見栄えのする表現そのものが目的になっていないか。新しい施策への挑戦やロジカルなマーケティングも大切だが、何よりも重要なのは、ブランドと広告の間にズレがないか、消費者にウソをついていないか、だ。人の心を動かすのは「美しいこと」ではなく「本当のこと」なのだから。
『ムシューダ』も『ハイゼットトラック』も、ブランドのアイデンティティを消費者と同じ視点でまっすぐとらえ、正直で愛嬌のある“等身大”のCMに仕上げたことが消費者の信頼を得たと考える。企業やブランドの価値を決めるのは、「いかにかっこよく見えるか」ということ以上に「いかに正直であるか」ということなのだろう。
前段の『伊右衛門』のくだりで、小学生からも「おもしろい」と評された、と書いた。CM構成と演出のうまさやドリフのパワーに驚き感服する半面、納得でもある。子どもは大人をまねして背伸びをしたがる。だから大人が思っている以上に敏感で、子どもだましは通用しないのだ。考えに考え抜いて、子どもにも受け入れられるくらい直感的に理解できる表現に落とし込むというのは、実はかなり技量が問われるし、難しい。
“ベタ”“お約束”というのは“古くさい”“手あかのついた”と混同されることもあるが、一見そんな表現に見えても人の心をつかめるCMというのは、やはりプロにしか作れない。
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