実家があり、ダブルワークはしていなかったので、おカネも時間も少しだけ余裕があった。休日は競輪に行ってストレス発散した。軽自動車を新車で買い、競輪場に通った。ある日、競輪場で16歳年上の中年男性にナンパされて恋愛した。中年男性は未婚の派遣労働者だった。
「正社員だったし、嫌でも頑張ろうと思って介護は続けた。だんだんその彼氏に依存するようになって、毎日、毎日、何時間も電話しないと気が済まなくなって、すごく束縛した。もう高齢者を見るのも限界で、彼氏に仕事のことを相談した。『失業保険をもらえるから辞めちゃえ』って言われて、そうかと思って辞めました」
23歳、グループホームを退職した。毎月ハローワークに行くだけで13万円がもらえる。時間ができて恋人への依存はさらに深まった。中年男性は介護職を辞める直前、「除染作業の会社を作るから」と彼女に借金を打診した。消費者金融をまわって、彼氏に100万円を貸した。100万円を渡してから3カ月後、彼氏は原田さんの前から消えた。
「彼氏がいなくなって、完全におかしくなりました。部屋に引きこもりました。同じ頃に父親が歩けなくなって介護が必要になった。歩行介助とか私が頼られて、気持ち悪かった。偉そうに1人で生きていけって言っていたのに、自分が歩けなくなったら私を頼るの?って。精神状態がおかしかったこともあって、父親を虐待しました。結局、自分で介護施設に行った。消えた彼氏とか借金のことを思い出すと暴れたり。壁を壊したり。最終的には部屋をメチャメチャにして、ゴミに埋もれるみたいな状態になって、友達に発見されました」
不眠、暴れる、何日も動けないなど、部屋がゴミまみれになるなど、普通じゃないことを自覚して精神科に行った。抑うつ状態と診断され、向精神薬を処方された。失業保険が切れた頃、状態が落ち着いた。派遣会社に登録して、地元を出て北関東の工場へ行くことになった。
普通を知らないのでわからない
貧困家庭に生まれた子どもの、痛々しいその後だった。
「北関東に行ってすぐにおばあちゃんががんで死んだ。連絡が来たときは笑ってしまったし。誰かが介護しないと生きていけない父親は、人間には見えないし、本当に気持ち悪い。母親は顔も名前も知らないので、今どうしているとか興味ないし、本当に関係ない。中学校には行ってないので友達も少ない。寂しいので男の人には執着してしまって、束縛がすごいみたいで全然続きません。彼氏ができても逃げちゃいます」
まだ25歳だ。子どもの頃の夢だった看護師になるとか、家庭を新しく作るとかできないのか。
「家庭とか子どもとか、普通を知らないのでわからない。子どもができたとしても、たぶん嫌になって捨てると思う。母親が私にそうしたように、同じことになる。だから結婚とかは考えられないし、もう家もないので寮のある工場でしか働けないです」
なにも聞くことがなくなったので、取材を終わらせた。貧困の連鎖と家族崩壊、精神疾患、異性への依存癖、深刻な関係性の貧困、それに高校中退に情報弱者――まったく未来が見えない。彼女はすべてをあきらめて、あいている時間をずっと寝ることで現実逃避をする。どうすればいいのか、筆者にもわからなかった。
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