25歳女性が「最下層」から抜け出せない理由 カラダを売っても続く貧困の深刻

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地元は東北地方。平均賃金や最低賃金は低く、さらに圧倒的に仕事がない。他県に出稼ぎに出るのは、親や祖父母の世代から決して珍しいことではないという。

「学歴は高校中退、10代はフリーターでした。突然将来が不安になって、20歳のときに介護施設に就職した。正社員だったけど、仕事が嫌でうつが始まった。2年間やるのが限界でした。半年間、なにもしないで失業保険をもらって、期限が切れる頃に派遣会社に登録しました。派遣会社から『地元を出ないと仕事はないですよ』みたいなことを言われて、北関東の工場に出稼ぎです。それが2年前です」

派遣会社から契約を打ち切られた

2年半前に祖母が亡くなり、それからしばらくして障害者だった父親は自立できなくなって介護施設に入所した。住んでいた実家は出稼ぎしているときに人手に渡り、帰る家はなくなった。

「最初の工場は時給1400円で1日8時間、手取りも20万円近くもらえた。最初は普通に暮らせて、気を病むこともなかった。ただ24時間制の3交代制の工場で夜勤が増えて、時間が不規則になって、知らない土地ということもあって精神的にだんだんおかしくなった。介護職の頃にうつになって、その再発です。休日にずっと寝ているみたいな感じから始まって、仕事に行けなくなって。ダメになりました。今も向精神薬を飲んでいる状態です」

うつの原因は心理的なストレスと言われる。誰も知らない土地に出稼ぎに行って、友達も知り合いも誰もいない環境だった。時給制なので働いただけしか給与はでない。連続欠勤して給与が5万円を割ったとき、派遣会社から契約を打ち切られた。2度の転職で時給も1050円まで下がってしまった。

「おカネがないので借金返済どうしようとか、食べ物が買えないとか、どうやって生きていけばいいのとか、どんどん悩みが増えた。負の連鎖です。おカネが本当にないときはおかゆに塩だけの食事を10日間とか。このままじゃ死んじゃうって、1年前に埼玉に移ったことをきっかけに思いきって風俗を始めました。風俗をやっても月2万円とか、多くても3万円くらいにしかならない。お弁当を買えるようになったくらい。消費者金融から返済の電話はたくさんかかってくるし、もう自己破産とか生活保護でしか生きることができないかなって。今、法律相談と福祉事務所に相談中です」

この1年半は、精神科で処方された薬を飲んでなんとか働く、それ以外の時間はほぼすべて家で寝ているだけという。年齢相応の若さや生気みたいなものを感じなかったが、楽しかったこと、笑ったことはなく、無自覚のうちに喜怒哀楽は失われてしまった、という事情のようだ。

望まない風俗仕事のダメージも重なった。人並みに生きることはあきらめた。あきらめるとは自分自身の将来や未来になにも期待しないことで、時間が許すかぎり、なにも考えないで家で寝ることにした。恋愛も趣味もなにかをするとおカネがかかる。寝ていればおカネはかからないし、なにも考えなければ精神に負担がかかることもない。

最近、自己破産や生活保護という制度や社会保障の存在を風俗店長から聞いて知った。それで、少しだけ元気が出てきたという。

「今思い出したけど、本当は子どもの頃、看護師になりたかった。それなのにこんなダメな人間になってしまって……」

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