障害児向け「エリート校」が生まれる根本理由 都が鳴り物入りで進める特別支援教育の正体

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だが、考えてみれば奇妙な図式だ。法定雇用率をクリアしたい企業は障害者向けの事務や清掃などの業務を切り出す。そして、そこに卒業生を入れたい学校は生徒たちにそうした業務中心の訓練を施す。さらに、そこに子どもを入れたい保護者は適性検査をパスできるよう塾通いさせる。

つまり、東京都が鳴り物入りで導入した特別支援教育とは、いわゆる"障害者仕事"を提供する企業への就職をゴールと定め、そこに至るまでの関門をクリアできそうな生徒たちを集めて訓練させているだけなのだ。

このように企業就労が特別支援教育の目的となればどうなるだろうか。少しでも子どもに発達の遅れがあると感じた親は、なまじ普通校に通わせていじめを受けたり就職活動で苦労したりするよりも、特別支援学校に入れて訓練を受けさせ、いわゆる"障害者枠"を使って企業に就職するほうが安心と考えるようになるだろう。

すなわち、法定雇用率引き上げを背景とするこうした"需要と供給の追いかけっこ"が冒頭で述べた特別支援教育が急拡大した要因のひとつと考えられるのである。

大卒の障害者の4割の進路が決まらない現状

この現象を障害児だけの特殊ケースとみなすのは適切ではないだろう。なぜなら、これは"教育とは何か"という本質的な問題を投げかけていると思われるからだ。就職がゴールになっているのは何も特別支援学校に限った話ではない。

子どもの数が減るなか、企業は戦力となる若者を採用すべく青田買いに走る。一方の大学生も3年次から企業が主催するインターンシップやセミナーに参加し、大学での専門課程の勉学よりも就職活動のほうを優先する。また、大学としても就職実績の良さを売り物に学生を集めている以上、そうした動きに対してあからさまに異を唱えることができない。

就職が教育のゴールになった弊害は別の形でも出始めている。日本学生支援機構の調査によれば、2015年5月時点で大学等に在籍する障害のある学生は2万人以上に達し、10年前の4倍の勢いで増えてきている。

なかでも増加が著しいのは、病弱・虚弱、発達・精神障害のある学生だ。日本の大学では一部の学部を除けば入試で面接を取り入れておらず、学力考査のみで学生を選抜している。したがって、上記のような健康上の問題や障害を抱えていても、筆記試験の出来がよければ大学に進学してくるのである。

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