肺がん治療に使える薬が患者ごとに違う理由 「1%単位のズレ」が患者の「命運」を左右する

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1%単位の診断結果により、患者が受けられる治療が大きく変わってくるにもかかわらず、診断を下す状況が十分とは言えない場合もある。当然、病理診断には相当なプレッシャーがかかる。

病理医は患者の組織検体を用いて最終診断を下す。だが、患者から組織検体を十分に採取できないケースがあり、1%単位での判定が難しいこともある。

加えて、キイトルーダのコンパニオン診断に用いられる方法は1つしか存在しないため、他の方法を併用して比較検討もできない。検体の保存状態なども診断に大きな影響を与える。

もちろん、50%未満の低発現症例は、50%以上の患者よりもキイトルーダの効果が乏しいと予測できる。

とはいえ、進行した肺がん患者にとって、治療の選択肢は1つでも多いほうがいいだろう。従来の抗がん剤と比較して副作用が少ないとなれば、なおさらのことであろう。

病理診断を担う専門家の育成が急務

日本では病理医が不足している(参考:ピンチ!がん治療の危機を招く「病理医」不足)。

病理医がいない病院は、検査を外注することになるが、検体の搬送などに時間がかかり、検査の精度を保つのが難しくなる。病理医が1人しかいない「ひとり病理医」の施設では、判定の難しい症例を1人で診断する必要に迫られる。

抗がん剤治療は著しい発展を遂げている。肺がんでも、オプジーボやキイトルーダとは別の新薬が次々に開発されて保険適用されている。場合によっては、新たなコンパニオン診断の必要性も出てくるだろう。

当然のことながら、適切な治療には適切な診断が不可欠である。適切な肺がん治療が行われるうえでも、病理診断を担う専門家の育成と充実が急務である。

小倉 加奈子 病理医

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おぐら かなこ / Kanako Ogura

順天堂大学医学部附属練馬病院病理診断科先任准教授、臨床検査科長。2006年順天堂大学大学院博士課程修了。医学博士。病理専門医、臨床検査専門医。2014年よりNPO法人「病理診断の総合力を向上させる会」のプロジェクトリーダー。病理医や病理診断の認知度を上げる広報活動として、中高生を対象とした病理診断体験セミナーや、がんの出張授業などを幅広く行っている。プライベートは高校1年と小学6年生の2児の母。松岡正剛氏が校長を務めるイシス編集学校の師範としての指導の経験を活かし、医療と教育をつなぐ活動を展開している。

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