イタリアは「ユーロ離脱」を問うべきでない 国債金利急騰という市場の審判に耐えられず

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現在のイタリアでは、国際条約の是非を問う国民投票の制度はないが、仮に、「ユーロ離脱」の是非を問うた場合、イタリア国民は離脱を選ぶのだろうか。

イタリアは、EU(欧州連合)の創設メンバーであり、ユーロにも発足当初から参加している国だが、ユーロの人気は低い。EUの欧州委員会の世論調査「ユーロバロメーター」でも、イタリアのユーロへの支持はユーロを導入する19カ国で最も低い。

2017年時点でも、家計の1人当たり実質可処分所得は、1999年のユーロ導入時の水準を下回っている。「物価水準が上がった」、「通貨切り下げという競争力回復のルートを奪われた」という不満は根強い。政治家が長年にわたって不人気な緊縮財政や労働市場などの改革の受け入れを「ユーロ導入国の義務」として国民に求めてきた結果ともいえるかもしれない。

イタリアのユーロへの支持は、圏内で最も低いとはいえ、59%あり、国民投票があれば残留という結果が予想されるのだが、僅差となる可能性はある。フランス大統領選挙の決選投票で、親EUのマクロン大統領が、EU懐疑主義のルペン候補に勝利した決め手の1つは、ルペン候補が示唆するユーロ離脱は資産価値の低下を招き、フランスは貧しくなると、呼びかけたことだった。

イタリアでも、人口のおよそ45%を占める豊かな北部では同様の訴えが響くだろう。しかし、人口のおよそ35%を占める南部は所得水準が低く、失業率が高止まる。繁栄から取り残されたという思いを抱く人々には、「ユーロから離脱すれば貧しくなる」という呼びかけは響きにくい。既存の体制に不満を持つ人々の意思表明として離脱票が多数を占める可能性は十分にある。

EUやユーロを標的にすれば市場から撃たれる

英国のEU離脱の是非を問う国民投票で、移民にスポットがあたり、離脱の意味が十分に吟味されなかったように、ユーロ離脱のコストとベネフィットが十分検証されないまま離脱を選ぶリスクも、国民投票にはつきまとう。

そもそも、国民投票の結果以前に、逆戻りできない通貨として導入されたユーロ離脱の是非を国民投票で問おうとする試み自体が、EU、ユーロばかりでなく、イタリアの信用を大きく傷つける。

巨額の政府債務残高を抱えるイタリアの場合、5月28~29日に見られたように信用低下で利回りが上昇すれば、財政の余裕度は乏しくなる。五つ星運動と同盟が「政権協議」に盛り込んだ大規模な財政拡張は、EUの財政ルールに抵触することでEUとの対立が先鋭化する以前に、市場によって阻止されるだろう。

EUでは、6月28~29日にEU首脳会議を控え、ユーロ制度改革の議論が大詰めを迎える。イタリアが強い不満を持つEUの財政ルールの見直しも課題の1つだ。イタリアの新政権は、どのような経緯で成立し、どのような組み合わせになるにせよ、EUやユーロを、有権者の不満のはけ口や支持獲得の材料とするのではなく、よりよい制度への改革に貢献し、イタリア経済の活性化に生かすことに力を注いで欲しい。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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