金正恩にはどうしても米朝首脳会談が必要だ 権威主義国家における最高指導者の胸の内

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北朝鮮が「リビア」という国名に神経質に反応していることがよくわかる。このリビアは2003年、米国との水面下の交渉を経て、核兵器を即時、無条件に放棄することで合意し、核兵器開発に関する機材や文書を米国に渡した。これを受けて米国は経済制裁を解除するとともに半年後に国交を結んだ。ところが2011年にリビアで大規模な反政府運動が広がると、それに呼応した欧米諸国が反政府勢力を支援して軍事介入した。その結果、政権は崩壊し最高指導者だったカダフィ大佐は反政府勢力によって殺害された。

当時、国務省の軍備管理問題担当次官としてリビアとの交渉を担当していた一人がボルトン氏だった。彼は北朝鮮の核問題に対してもリビアと同じ手法で臨むべきと主張している。ところが北朝鮮からすると、核兵器を放棄した結果、リビアと同じように欧米諸国の軍事介入を受けて政権が崩壊してしまうようなことになったのではたまらない。だから「リビア」という名前に過剰反応しているのだ。

金桂冠氏は同じ談話の中で「我が国は凄惨な末路を歩んだリビアやイラクではない」と繰り返しボルトン氏の主張するリビア方式を批判し、「われわれを隅に追い込んで一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、われわれはそのような対話にこれ以上、興味を持たず、近づく朝米首脳会談に応じるかを再考慮するしかない」とまで言い切っている。

「トランプ方式」は体制を保証するとの期待

この談話にトランプ大統領が不快感を示し、「中止通告」につながった原因のひとつともいわれている。しかし、よく読むとこの談話は十分に計算して書かれている。ボルトン氏に対しては繰り返し批判をしているが、トランプ大統領については一切批判をしていない。そればかりか、「トランプ大統領が歴史的根源の深い敵対関係を清算し、朝米関係を改善しようとする立場を表明したことについて私は肯定的に評価したし、近づく朝米首脳会談が朝鮮半島の情勢緩和を促し、立派な未来を建設するための大きな歩みになるだろうと期待した」と、評価しているのである。

ここから北朝鮮が本当に首脳会談を実現したいと考えていることが読み取れる。そして首脳会談の中止通告を受けた後の25日に公表された2回目の談話になると、首脳会談実現への意向がより強く表れている。

「われわれはトランプ氏が歴代のどの大統領も下せなかった勇断を下し、首脳会談という重大な出来事をもたらすために努力したことを内心では高く評価してきた」

「一方的に会談中止を発表したことは、われわれとしては、思いがけないことで、極めて遺憾に思わざるを得ない」

北朝鮮は長年、米国はじめ日本や韓国をこれ以上ないほどの激烈で時には下品ともいえるような言葉で批判、非難し続けてきた。ところが今回の談話にはそうした点がまったくない。そればかりかトランプ大統領に最大限の評価、礼賛の言葉を使い、首脳会談実現への期待をあらわにしている。北朝鮮の外交に社交辞令など無縁であることを思うと、これらは本音に近いものだろう。

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