ソウルの小さな本屋で起きている大きな進化 韓国では若い店主たちが本の新しい形を提供
「シュレーディンガー」には300冊ほどの猫本がある。毎日、インターネットなどから新刊情報にアンテナを張り、取次業者は通さず、直接、自分で仕入れている。
日本にもたびたび訪ねて猫に関する新しい情報を探っているという。一日平均10~15人ほどの客の出入りがあり、週末はその倍ほど30人近くが訪れるそう。
2年は赤字覚悟で始めたそうだが、「おかげさまで今のところ赤字になったことはありません」と笑う。
ドキュメンタリーを上映したり、講演会を開くなどのイベントも精力的に展開していている。今もっとも力を入れているテーマは「ペットロス」についてだ。
「ペットロスで心を痛めている人はとても多いです。専門家の講演会を開いたり、どうしたら治癒できるかを模索中です」
「シュレーディンガー」で話を聞いていたとき、偶然入って来たお客さんの中に男性客がいた。同店の顧客はほとんどが女性と聞いていたので、珍しさもあって声をかけると、自身もブックカフェならず、ブックステイを運営しているという。ブックステイは本の読めるゲストハウスのこと。平昌冬季オリンピック・パラリンピックが開かれた江陵にあり、ソウルにたびたび出てきては情報交換をしているという。
本屋の形がいつの間にか様変わりしていた
へえ、韓国の街の本屋はこんなさまざまな形にその姿を変えているのかと思い、あらためて調べてみると、こうした動きは実は前からあったようだ。日本でも韓国の本屋のこんな現状について書かれた本(『本の未来を探す旅』朝日出版社2017年刊)も出版されていて、ソウル市でも去年2月に『本屋散策1』というブックツアー本を刊行し、今年もその第二弾が出た。
弘益大学(弘大)近くにある「サンクスブックス」はソウルの街の本屋がこうした広がりを見せる前の2011年に、ソウルでは初めてコーヒーが飲める本屋としてオープンしたパイオニアで、今の韓国の街の本屋のロールモデル的存在だ。
この5月にはいままであった表通りから路地裏に移転した。
「心機一転といいますか。2年、いや、3年前頃から私たちのような小さな街の本屋がわっと増え始めてお客さんの選択肢もそれだけ増えました。私たちにも変化が必要だと感じていたこともありますし、もともとこの店は、代表が『文化空間を作りたい』と始めましたが、弘大という街がどんどん変わっていく中で、私たちも止まっていることはできません。さらにこの『文化空間』であるコンセプトを守るという意味からも新しい場所を求めました」
こう話してくれたのは、マネジャーのソン・ジョンスンさんとヨム・ハンビョルさんだ。「サンクスブックス」はグラフィックデザイナーだった代表が始めた店で、今、店舗はソンさんとヨムさんのふたりが本のセレクトからすべてを切り盛りしている。共に30代だ。
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