過剰医療大国ニッポンの不都合すぎる真実 いまだバリウム検査に偏る胃がん検診の謎
そのため「経験がないから不安で、つい内視鏡での再検査に回してしまう。結果はほとんどが異常なし」(若手医師)。患者にとっては二度手間のうえ、医療保険財政にも負担をかけることになる。「内視鏡が未発達だった時代は、外からでも工夫して見ようとするバリウム検査の意義は確かにあった。だが内視鏡技術が著しく進歩した今もバリウム検査に頼っているのはおかしい」。NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構事務局長の笹島雅彦医師は話す。
実は内視鏡検査を新たに推奨した現行の「胃がん検診ガイドライン2014年版」(国立がん研究センターがん予防・検診研究センター)の当初案では、推奨するのは引き続きバリウム検査のみで、内視鏡検査は推奨しないとなっていた。だが、臨床医たちからの猛反発を受けて、ようやく盛り込まれた経緯がある。数千万円するX線装置を積んだ検診車や検診センター、放射線技師など、バリウム検査にかかわる利害関係者への配慮が働いていたといわれている。
ただ胃がん検診で内視鏡検査を行っている自治体は今も少数だ。内視鏡医の人手不足の問題が大きく、医師不足の地域ではより厳しい。そもそも全国民が一律に毎年胃がん検診を受ける必要性があるのか、という根本的な疑問の声も専門家からは上がっている。「胃がんは生活習慣病ではなく、99%がピロリ菌による感染症だと判明している。危険度が診断できるようになった以上、一律の検診は合理的ではない」。北海道医療大学の浅香正博学長は力を込める。
ピロリ菌と胃粘膜委縮双方が陰性なら?
そのため一部の先進的な自治体や健康保険組合は「胃がんリスク層別化検査」(胃がんリスク検診)を導入している。ピロリ菌感染の有無と、胃粘膜萎縮の程度を血液検査で確認して、胃がん発症の危険度をグループ分けする。ピロリ菌と胃粘膜萎縮双方が陰性なら、胃がんのリスクはほぼゼロで内視鏡検査は基本必要ない。
いずれかが陽性ならば内視鏡検査を受け、胃炎があれば保険適用で除菌治療を行う。ピロリ菌陽性率は4割弱とみられ、「検査が必要な人を絞り込むことで、確かな診断力を持った内視鏡医による対応が可能になる」(国立国際医療研究センター国府台病院の上村直実名誉院長)。
「もし、もっと早い時期に胃がんリスク検診を経て、内視鏡検査を受けていたら、夫は助かったかもしれない」。スキルス胃がんの患者・家族の会「NPO法人希望の会」理事長の轟浩美さんは話す。轟さんの夫は毎年自治体の実施する住民検診でバリウム検査を受けていたが、見つかった時はすでに末期のスキルス胃がんだった。「全員検査でリスク分けもされず、流れ作業のようになっているバリウム検査では救える命も救えない」(轟さん)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら