過剰医療大国ニッポンの不都合すぎる真実 いまだバリウム検査に偏る胃がん検診の謎

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米国で始まったキャンペーンに呼応し、日本でも総合診療指導医コンソーシアムが日本におけるムダな医療の「五つのリスト」を公表した。「通常の腹痛で腹部CT(コンピュータ断層撮影)検査を勧めない」「無症状で健康な人にMRI(磁気共鳴断層撮影)検査による脳ドックを勧めない」など5つのうち4つが検査・検診に関する提言となっている。

「過剰医療は先進国の共通課題だが、中でも日本では検査や検診の過剰が深刻だ」。コンソーシアムの世話人を務める、群星沖縄研修センターの徳田安春センター長は語る。

実際、日本医学放射線学会が指針で推奨していない「通常の頭痛を訴える人への頭部CT、MRI検査」を頻繁に行っている病院は、調査対象の半数を占めた――。昨年1月、順天堂大学の隈丸加奈子准教授がそんな調査を行った。隈丸准教授は「CTのような被曝を伴う検査のデメリットへの認識が、現場に浸透していない」と危惧する。経済協力開発機構(OECD)加盟各国中でも、日本のCT、MRIの台数は圧倒的だ。人口100万人当たりの機器台数は両者とも加盟国中トップに立つ。

検査するだけ収入が増す出来高払い

日本の外来診療は検査をするだけ収入が増す出来高払いとなっており、病院経営者からすれば、こうした高額な機器を入れた以上、稼働率を上げようとなりがちだ。過剰検査の弊害は患者本人の不利益にとどまらない。検査が重なると、本当に必要な検査が後回しになったり、重要な指摘を見落としたりしかねないためだ。それは特定の病気の有無を調べるための検診でも同様で、典型的なのが胃がん検診だ。

胃がん検診は1982年に開始され、2015年に内視鏡検査が選択肢に加わるまで、40歳以上を対象に年1回、胃部X線検査(バリウム検査)で行うものとされてきた。胃がん死亡者数は年約5万人と50年近くほぼ変わらず高止まりする中、国が一貫して推奨してきたバリウム検査だが、患者からも医師からも評判は芳しくない。

患者にとっては発泡剤を飲み検査台上で無理な体位を求められる身体的苦痛に加え、バリウムによる排便障害もある。何より「胸部X線検査の数十倍から100倍近くの被曝量」(複数の医師)のデメリットは無視できない。

医師にとっても現在、消化器内科の臨床現場で活躍するのはもっぱら内視鏡検査であり、バリウム検査はそれこそがん検診の場でしか扱うことはない。特に若手医師はほとんどが、学生時代にも臨床現場でもバリウム検査を学んでいない。

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