54歳「がん全身転移」を克服した男が走る意味 死線をさまよい生き延びた先に使命が見えた

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会員数を1万人、3万人と伸ばしていきたいと、2016年にはNPOの存在を認知してもらうため、新たに「ミリオンズライフ」というサイトを立ち上げた。日本で新たにがんと診断される人は年間100万人を超えており、それが名の由来となった。がん患者の生活情報として、がん経験者の体験記やインタビュー、治療の費用や保険・給付金の金額などおカネの情報を提供している。インタビューも執筆も、大久保自ら手掛ける。

これを提案したのは、ファイブイヤーズからタッグを組むIT会社社長の山本晃だ。難病患者向けのSNSを開発している縁で知り合った。毎週の会議でアイデアをぶつけ合う。山本は「エネルギッシュで前向き。がん患者の本当に欲しいものがわかっていることに共感した」と語る。

ファイブイヤーズは寄付金だけで運営するが、ミリオンズライフは広告も集める。大久保の目標は、「社会貢献のビジネス化」だ。まだ順風満帆とはいえないが、周りから次々に支援の声が上がった。

ゴールドマン時代に大久保の取引先だった橋元祐三もその一人で、ファイブイヤーズの理事にも名を連ねる。大久保のことを「昔から誠実さは変わらないが、病気後は突き抜けたように積極的になった。多くの人の思いを背負っているからだろう」と評する。

自分の限界は自分が決めるものだ

大久保は思いを全身で受け止めて走り続ける。今年6月には、記念すべき10回目のサロマ湖マラソンが控えている。そして来年春には、炎天下のアフリカ・南モロッコの砂漠で1週間かけて230キロメートルを走破する「サハラマラソン」に参加するつもりだ。

来年春には、「サハラマラソン」に参加するつもりだ(撮影:尾形文繁)

その過酷さは尋常ではなく、完走できるかどうかはわからない。しかしあきらめず挑戦し続ける。

「がんの闘病中、人生がピークアウトしたと思ったが、何とか振り出しに戻れた。自分の限界は自分が決めるものだ。誰であれ、他人に決められるものではない」

さらに高みを目指す自分の背中を見てもらうこと、それこそが大久保の生きている証しだ。(敬称略)

塚崎 朝子 ジャーナリスト/博士(医学)・慶応義塾大学非常勤講師

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つかさき あさこ / Asako Tsukasaki

東京都世田谷区生まれ。読売新聞記者を経て、医学・医療、科学・技術分野を中心に執筆多数。国際基督教大学教養学部卒業、筑波大学で修士(経営学)、東京医科歯科大学で修士(医療管理学)。再生医療・新薬開発など生命科学に関する取材経験が豊富で、専門家向け・一般向け双方に分かりやすく解説。

著書に、『免役の守護者 制御性T細胞とはなにか』(坂口志文氏との共著、講談社)、『iPS細胞はいつ患者に届くのか』(岩波書店)、『世界を救った日本の薬 画期的新薬はいかにして生まれたのか?』(講談社)、『新薬に挑んだ日本人科学者たち』(講談社)ほか。

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