納得できる死を「創る」にはどうすればいいか

いま知りたい終活――作家 柳田 邦男インタビュー

父からもらった最高の財産は“静かな死”だと思っています。父の死の場面は、いまだに忘れようもなく、僕の記憶にしみ付いている。いちばん人間らしい、自然な旅立ちだという気がするんですね。

僕の死生観に関してはもう一つ、1970年代の終わりごろから、ノンフィクション作家として、がん医学を中心とした生と死の問題を追いかけてきたことも大きい。本になっているだけで数百、雑誌への寄稿なんかを含めれば千くらいの闘病記を読んできました。闘病記を通じて知った千人の死の積み上げで、死ぬ瞬間のイメージができてきたのです。

だから、死がイメージできない人には、闘病記を読むことを薦めます。良い闘病記を読むということは、死を迎えるためのいわば問題集をこなしているのと同じこと。受験勉強でたくさん過去問をこなせば応用力がついてきますよね。自分の死というのは、人生における最後の入学試験だと思えばいい。

一般的に、タレントの闘病記は、特殊な世界なので参考になりにくい。もっと静かな闘病記がいいです。たとえば医者や学者。あるいは無名の人が書いたもの。遺された方の追悼記もたくさんあります。少なくとも40歳を過ぎたら、人間の生き方と死に方についての本を読まれることを薦めます。死生観には方程式のようなものはありません。自分が体験したり本を読んで積み重ねたりした、ストーリー性のあるものでないと“死の戦略”を立てられないのです。

 闘病記は、自分の最期を創る場面でも役に立ちます。

職業柄、僕にとっては、書くことが生きること。最期まで書いていたい。書くという行為は、自分の心をもう一人の自分が見ることにつながります。
書くことを生業としていない人であっても自分の内面を表現し、最期の生きている自分を確認できるという意味で「書く」効能は大きいのです。散文ではなく、詩歌や絵で表現するのもいいでしょう。

『歯と瞼』(晴耕雨読)、という歌集があります。愛媛新聞に短歌を投稿していた田中俊一さんという一般の方が詠んだ歌をまとめたもので、素人だとは思えないほどすばらしい歌集です。田中さんは難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)で、病気の末期には歯と瞼しか動かないような状態になりました。瞼を必死に動かし、介助者に一字ずつ文字を拾ってもらって歌を詠んだのです。

次ページALSに苦しむ、田中さんの闘病記から学ぶこと
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