「労働時間削減」と「生産性向上」は両立できる 労働環境の改善こそ働き方改革のキモだ

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政府の名誉のために言っておくと、政府は働き方を変えることを目標に掲げるだけでは不十分だということを認めている。厚生労働省は2015年から労働時間のモデル企業をウェブサイトで公表し始めた。初期の働き方改革実現会議が議論を始めるより前のことだ。さらに2016年には都道府県の労働局に「働き方改革推進本部」を立ち上げた。

一方、経団連は「働き方改革 CHALLENGE 2017」と銘打った取り組みを始め、明確なアクションプランや、企業文化の見直しを図る共同宣言、休日取得推進キャンペーンや、これにかかわる広報活動――の4つを具体的に行うと発表している。

企業も習慣を変えようとしている

こうした取り組みがどの程度効果があるかはわからない。現実の職場レベルでの成果を保証するものではないからだ。しかし、さまざまな調査で企業が現実に習慣を変えようとしていることがわかる。

たとえば、2017年の厚生労働省の調査では、企業の54%は休暇取得を促進しているほか、60%が長時間労働管理を強化、23%がフレックスタイムなどを導入、5%がテレワーク制度を導入している。また、7%は限定正社員などの新たな雇用形態を設定し、46%は育児介護などの条件改善し、29%では働き方改革に対する経営トップのメッセージの発信などを行っている。

また、NTTデータ経営研究所の調査では、働き方改革に取り組む企業の割合は2015年の22.2%から2017年には36.4%に増加した。回答者は、「労働時間が減少している」(26.0%)、「休暇が取得しやすくなっている 」(25.2%)、「気持ちに余裕が生まれている」(23.8%)、「健康状態が良くなっている」(16.5%)、そして「生産性が向上している」(15.3%)などを指摘している。

さらに、就活生の口コミ情報サイト、ヴォーカーズの調査では、調査対象となった企業の平均単月残業時間は、2014年の44時間から2017年には32時間に減少。また、企業は働き方改革を採用ツールとして使い始めており、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの2017年の調査では、休日の多さと残業の少なさに価値を置いている新入社員の割合(41.5%)が2004年の調査開始以来始めて、給料の増加(34.4%)を超えた。

結局、日本の働き方改革の運命は、官僚と産業団体、労働組合そして経営者や労働者が辛抱強く進捗を見つめ、結果を強く求める力にかかっている。政府による広報活動や行政指導が力になるのは確かだが、それにはより強力な手段による後ろ盾が必要な場合もある。そして経営者たちが本当に自分たちの従業員の労働時間を短くしたいのであれば、照明を消し、ドアに鍵をかけ、彼ら自身がもっと早く帰宅の途に就かなければならないのである。

スティーブン・ヴォーゲル カリフォルニア大学バークレー校教授

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Steven K. Vogel

ボストン出身。プリンストン大学在学中インターンシップで当時の国務大臣、伊藤宗一郎氏の秘書を経験。大学卒業後、ジャパン・タイムズに勤務。その後、カリフォルニア大学バークレー校で修士、博士号を取得。カリフォルニア大学アーバイン校、ハーバード大学などで教えた後、現在は、カリフォルニア大学バークレー校政治学部教授。先進国、主に日本の政治経済が専門。著書に『Japan Remodeled : How Government and Industry Are Reforming Japanese Capitalism』など。

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