「空飛ぶタイヤ」は映画でも観客を熱くさせる 池井戸小説が初映画化、読者限定試写会実施

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八方ふさがりで、次々と困難が降りかかり、時に挫折しそうになりながらも、自分の正義や家族や会社を守るため、大企業に立ち向かっていく赤松の姿は、多くの観客の共感を呼び、そして熱く胸を揺さぶりそうだ。

そして全編を通じて、苦悶の表情を浮かべ、苦難を耐え抜く赤松というキャラクターは、長瀬にとっても新境地となった。本作のメガホンを取った本木克英監督も、「主演の長瀬智也さんは、情熱やおとこ気を発散するだけでなく、内に秘める表現もできる希有な俳優です」と、評価している。

ホープ自動車のカスタマー戦略課課長・沢田悠太を演じるディーン・フジオカ。旬な俳優が多く登場するのも本作品の魅力だ ©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

一方、ホープ自動車のカスタマー戦略課課長・沢田悠太を演じるのは、台湾で人気俳優となり、国内でも活躍を続けるディーン・フジオカだ。

事故の原因はトラックにあるのではないか、という赤松からの再三の再調査要求を疎ましく思いながらも、やがて調査内容を疑問に思うようになり、自ら調べていくうちに、会社がひた隠す、重大な事実に気づいてしまう。大企業のサラリーマンとしての立場と、自らの心の内の正義との間で揺れていく沢田を演じる。

赤松とは対照的に、一見クールに見えるが、内には熱いものを秘めた男で、「赤松と沢田は立場がまったく違いますが、正義に対して近い価値観を持った2人がぶつかり合い、最終的にはそれぞれの戦いを全うしていく――。こういう人たちがいたら世の中はいい方向に行くんじゃないかなと、希望を感じながら演じることができました」とディーンは振り返る。

そしてもうひとり。第三の男として登場するのが、こちらも旬な俳優・高橋一生演じる井崎一亮だ。伊崎は、大手ホープ銀行の本店営業本部でグループ会社であるホープ自動車の融資を担当。ホープ自動車の経営計画に疑問を感じ、自らも秘密裏に調査を開始する。グループ会社内のいざこざに巻き込まれながらも、冷静沈着で本質を見失わず、心に熱い正義を持っている男であり、彼の存在もまた、物語の大きな軸のひとつとなる。

”おごる巨大企業”に立ち向かう中小企業

本木監督も「作らない演技によって強烈なリアリティを打ち出す、独自の境地を得た俳優だと思います。低音の美声と、不意に見せる笑顔に世の女性たちが魅了されている理由がよくわかりました」と、高橋のことを評している。「鉄の骨」「民王」に続き、3度目の池井戸作品の出演となった高橋は「勝手にご縁を感じてしまっています。池井戸さんの描く社会的な要素や人間の本質だったりするものが、社会を通して浮き彫りになっていく作品が多いので、出演させていただくことは役者冥利につきます」とその喜びを語る。

作品を手掛けた本木克英監督は「作らない演技によって強烈なリアリティを打ち出す、独自の境地を得た俳優」と高橋一生(写真)を評価 ©2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

本作は、2000年代前半に起きた、「三菱自動車リコール隠し事件」をモデルとしているが、そこで描かれているのは、池井戸が言うところの「人の命を軽視し、社会を欺き、自らは保身に走る――。巨大企業の腐りきった内情と、会社の常識は世間の非常識を地でゆくエリート社員たち」である。

そんな巨大企業のおごりに対して、運送会社を営む中小企業の社長・赤松が「中小企業をなめるな!」とばかりに「ノー」を突きつける。彼は、危機に次ぐ危機でボロボロになりながらも、くじけずに、一歩でも二歩でも前に踏み出そうとする。そんな赤松の姿は、観る者を熱くさせ、「赤松、頑張れ!」と拳を握らせることは間違いない。

(文中一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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