北朝鮮が韓国に「電力支援」を切望する事情 発電所の低稼働や送電網の改善が必須

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しかし、南北経済協力が進んだとしても、北朝鮮に大型発電所を建設する可能性は低い。政治的負担は別として、経済的実効性が低いためだ。大規模発電所は現在、北朝鮮の電源規模や老朽化した送配電網では円滑に稼働できない。そのため、短期的には送配電設備の現代化が最優先課題とされる。発電設備を追加するよりは、電力の損失を減少させることを優先すれば電力難を解消できるという理由からだ。

前出の『北朝鮮ビジネス進出戦略』では、「北朝鮮は発電所建設を好む傾向があり、さらには現地で建設する際に生じる機密事項などを進んで公開しない。一方、韓国の支援が軍需に活用されることを懸念し、韓国側も直接的な電力支援を避けがちだ。

だからこそ、送配電設備の現代化は双方ともに拒否感が少ない事業」と説明している。送配電インフラが確保され、南北関係が改善された後にも、新規の発電設備を建設するよりは、まずは老朽化した発電所をリニューアルする作業をまず進める可能性が高いだろう。

北朝鮮に「家庭用太陽光」を支援する可能性も

再生エネルギーの開発がより現実的だという指摘もある。北朝鮮当局は再生エネルギーに関心が高い。北朝鮮は2013年、「再生エネルギー法」を制定し、再生エネルギーで2044年までに500万キロワット時を生産する目標を立てたほどだ。さらに、再生エネルギーは小規模で開発が可能という長所がある。また、電力の実需要と近い位置にあればあるほど経済性を高められる。

当面、送電線網が不備で損失率も高い北朝鮮にとっては、大型発電所の建設よりは電気の生産から消費までの過程を最短化し、電力損失率を低める小型の再生エネルギー開発がより適切だとの見方だ。韓国にしても、原子力発電所の提供よりも政治的な負担が少なく、民生用中心の供給が可能になるという利点がある。専門家らは現在の南北関係を考えると、人道的な面からも優先的に家庭用の太陽光パネルを供給する事業を推進できると見ている。

北朝鮮とのエネルギー協力は、韓国企業にとって事業チャンスの拡大へとつながる。特に電線業界はインフラ事業への参加が有力であり、南北経済協力を歓迎している。新たな電力網を構築する場合、必要な大規模ケーブルや通信網を構築する際に必要とされる別途の光ケーブル、産業団地構築用の産業用ケーブルなどインフラ全般で機会が生じるだろう。再生エネルギー業界も、南北経済協力の行方に関心を持っている。あるエネルギー業界関係者は「韓国の太陽光業界の間でも、北朝鮮という新市場が開かれれば供給過剰を解消できるという期待感がある」と言う。

ハム・スンミン 韓国『中央日報エコノミスト』記者
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