復興途上の宮城「漁業」を襲った新たな試練 空前の不漁に出荷自主規制が直撃

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石巻市牡鹿町小渕浜の佐藤秋義さん(69)は、宮城県産のワカメの1割を生産する県内屈指の養殖業者だ。震災で船や養殖施設の大半を失ったが、韓国や中国に出向いて新たな資材を調達し、いち早く復旧にこぎ着けた。

小渕浜のみならず、牡鹿半島や南三陸町での養殖に必要な施設も用意し、仲間の復旧を手助けした。佐藤さん自身は現在、震災前よりも養殖の規模を拡大させている。本誌記者が訪問した2月には、ベトナムから招聘する技能実習生向けの寮の建設も進められていた。

「震災のピンチをチャンスに変えようと努力してきた」と佐藤さん。「後継者不足で宮城県のワカメの生産量は今後減少が避けられない。うちの場合は幸いにも二人の息子が後を継ぐことを決めてくれているので業容拡大が可能になった」(佐藤さん)。

生産性の向上に活路

今年2月22日には、世界貿易機関(WTO)の紛争解決小委員会(パネル)が日本の訴えを認め、韓国による8県の水産物の輸入禁止問題で、不当な差別だとする日本の主張を認める報告書を取りまとめた。韓国は不服として上級審(二審)に上訴した。判断が出るのは夏ごろと見られる。引き続き日本の主張が認められれば、震災前に生産量の約7割が韓国向けに輸出されていたといわれるホヤを含めて、輸出再開の展望が開ける。

宮城県漁業協同組合の阿部誠専務理事によれば、「震災をきっかけに正組合員数は大きく減ったが、1人あたりの生産はむしろ上がっている。そこに復興の手掛かりがある」と指摘する。阿部氏はカキ養殖で環境に配慮した国際的な養殖認証制度の取得や申請が進んでいる事実を踏まえ、生産者の意欲の高さに着目している。

前出の二宮さんが育てているカキは、「鳴瀬かき」のブランドで知られる。身が殻にびっしりと詰まっていて歯ごたえがあり、甘みもある。震災前から全国に固定客を多く持ち、注文に応えてきた。船を失い、処理施設も全壊したことで、震災直後は廃業も考えたという二宮さんだが、「どんな商売でも山あり谷あり。そのサイクルを乗り越えれば道は開ける」と達観している。

宮城の漁師たちは未曾有の苦難を、持ち前の忍耐強さで克服しようとしている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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