SLの「メンテナンス」は各社でずいぶん違う 最新式と昔ながらの方法、どちらがベスト?

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JR東日本の「SL銀河」(撮影:尾形文繁)

国鉄が分割民営化された1987年以降はJR各社が続々とSLの復活運転を開始した。ただし、いずれも古い車両ゆえに保守にはどの会社も苦労しているようだ。JR九州のSL「8620形」は1988年に「SLあそBOY」としてデビューしたが、2005年には運転中に台車が異常発熱するというトラブルに見舞われる。台枠が変形し、その歪みから車軸に負担がかかり、車軸焼けを起こしたのだ。SLあそBOYは運休に追い込まれ、台枠を新造したうえで2009年に「SL人吉」として復活を果たした。

JR東日本は2014年から花巻-釜石間で「SL銀河」を運行している。その愛称は、むろん花巻出身の童話作家・宮沢賢治の代表作『銀河鉄道の夜』にちなんだものだ。SLが牽引する客車は、いわゆる機関車に牽引される客車ではなく、「キハ141」という気動車。このため、SL銀河の走行時、SL単独では牽引が困難な急勾配区間ではSLと客車のディーゼルエンジンが協調して走行する。

本線走行可能なSLはほとんど残ってない

私鉄では、2017年8月に東武鉄道が「SL大樹」を運行開始した。SLはJR北海道から貸与を受け、車掌車はJR貨物とJR西日本、客車はJR西日本、そしてSLの運行をサポートするディーゼル機関車はJR西日本から譲り受けた。機関区や検修庫の新設なども含めると総額30億円というビッグプロジェクトだ。

東武鉄道で「SL大樹」として走るC11が北海道から到着した(写真:尾形文繁)

現在の東武鉄道にはSLの運行や保守のノウハウはないため、SL運行の実績があるJR北海道、真岡鉄道、秩父鉄道、大井川鐵道に社員が出向き研修を受けた。

2013年から準備を行い、万全の態勢で臨んだ開業。にもかかわらず、9月末にSLのボイラーやブレーキに不具合が見つかり、2日間にわたり運休。SLの代わりにディーゼル機関車が客車を牽引した。

東武鉄道は、SLをもう1機導入して、運休しない態勢を目指している。しかし、「営業運転できそうな車両はほとんど残っていない」と、ある鉄道関係者は嘆く。

SLのメンテナンスは実に難しい。それでも乗客の笑顔を楽しみに鉄道会社の保守担当者はSLと格闘する日々が続く。SLの運行が表舞台だとすれば、乗客にはうかがい知れない舞台裏でSL運行のための格闘が続いている。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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