「マチズモ」は白人男性の恐怖心の裏返しだ 社会の多様化に追い詰められている

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では、なぜ今、欧米で政治的なマチズモが火を噴いているのか。

要因はいろいろある。若い男性には、男女平等を求めるフェミニストに恐れを抱いている者もいるようだ。たとえ社会の中で重要なポジションを男性がほぼ独占している状況が続いていようとも、それはもはや保証の限りではない。ヒラリー・クリントン氏が大統領候補になるのを快く思わなかった人が多かった理由の1つは、大嫌いな女性上司を思い浮かべた男性があまりにも多かったからだ。

女性の権利を訴える動きに脅威

女は押し倒されて喜ぶものだと言ってスキャンダルを巻き起こしたカリスマ・ナンパ講師のジュリアン・ブランク氏のような人物から、男が主導権を握るのは当然だという話を聞いて自信を持ちたい――そう願っている男性も少なくないようだ。セクハラや性暴力を告発する「#MeToo(私も)」運動など、女性の権利を訴える動きに脅威を感じている男性もいる。

西欧社会で出世する女性が増えるのと同時に、非欧州系の人物が成功者となる事例も増えてきた。

クリントン氏が力を持った女性として嫌われていたのだとしたら、多くの人々が嫌悪するものすべてを象徴していたのがオバマ前大統領だ。高学歴でリベラル、「フセイン」というイスラムのミドルネームを持ち、アフリカ人の息子として生まれた。

そんなオバマ氏が大統領となる一方で、中国が大国にのし上がった。さらに、西欧の外からの移民が目立ち、女性の権利を声高に叫ぶ人が増えたことで、世の中の変化が一目瞭然となった。だからこそ、「すべてを取り戻す」と約束した、金髪で傲慢、かつ女性を見下した態度を取るトランプ氏が大統領に選ばれたのだ。

だが、どれだけ雄たけびを上げようとも、肥大化したトランプ氏のマチズモは説得力を欠いている。なぜなら、その裏に見え隠れしているのは、男性優位が終わりを告げたことにびびって縮み上がっている白人男性の姿なのだから。

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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