飲食店がお手頃価格のランチを出す真の理由 素人が安易に始めて成功できる事業ではない
この徳多和良モデルを真似するのは難しいでしょう。ただし、ここまでいかずとも、売り切れ御免の店は世の中にたくさんあります。その基本的な考え方は、その日一日の売り物数量に上限を設け、売り上げ(収入)をセーブすることと引き換えに廃棄ロスを減らすところにあります。
日本の一般企業に勤める多くの方は、売り上げ機会をロスすることは「罪悪だ」と叩き込まれています。こうした売り切れ御免の商法は、理解できないところがあるかもしれません。頭ではわかっても、それでビジネスとして継続できるというイメージを持てないかもしれません。
しかし、売り上げを作るための原価だったはずのものが、1日経てば1円も生み出さない特別損失に変わってしまう飲食店経営において、有効な経営戦略の1つなのです。
飲食店経営の難しさ
私は、ベンチャーキャピタリストとして1000以上のビジネスモデルを見てきました。同時に、自分自身も事業のゼロからの立ち上げを経験し、飲食業も含めさまざまな投資案件を見極めてきたつもりです。
拙著『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』でも詳しく解説していますが、飲食業は「基本的には勝てないビジネスモデル」だといえます。
開業しやすそうに見えるのか、普段足を運ぶカフェなどが楽に回っているように見えてしまうためか、飲食店経営を軽く考えている人があまりにも多いと感じます。ベンチャーキャピタリストの目で見れば、飲食店は最も難しいビジネスの1つです。
日本政策金融公庫の「新規開業パネル調査」における業種別廃業状況では、調査期間の5年間(2011〜2015年)の全業種廃業率が平均10.2%のところ、飲食店・宿泊業の廃業率は18.9%と、2倍近い数字になっています。これは、全業種を通して最も高い廃業率です(ちなみに、2番目は情報通信業15.8%、3番目は小売業14.5%)。こうしたデータが、飲食店経営の難しさを物語っています。
立地の選定、資金繰り、店舗作り、商品企画、仕入れ、原価管理、製造管理、採用、人事管理、マーケティングなどなど、飲食店には経営学のあらゆる要素がすべて詰まっています。それでいて、店舗は固定されて動かすことはできず、食中毒や食い逃げなどのリスク要因は多く、利益率は非常に低い。とてもとても素人が安易に始めて成功できるような事業ではありません。
これまで培かってきた知識と経験をほぼそのまま生かすことができ、ほかに比べて明確な優位性があり、最初から多数の顧客がついていて、初年度から黒字が確実であるのなら、飲食店を始めてもいいかもしれません。
しかし、このうちどれか1つでも当てはまらないのならば、悪いことは言いません、やめるに越したことはありません。赤字が続き、資金はどんどん減っていき、いつまでも先が見えない恐ろしさにさいなまれ……その苦しさに耐えることができる人はまれです。
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