飲食店がお手頃価格のランチを出す真の理由 素人が安易に始めて成功できる事業ではない

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また、昼の営業と夜の料理の仕込みを並行させることで、スタッフを効率よく稼働させてもいます。人件費の無駄をなくすための知恵です。ランチ営業をすることで、アルバイトのシフト編成も絡めて、L比率も同時に引き下げているのです。

このように、夜の営業をメインにした飲食店のランチ営業は、FL比率を下げるための経営努力にほかなりません。

F比率を下げるための効果的な方法は、主に2つあります。1つはコース料理のみで予約を埋めること。もう1つは、つねに満席で人がごった返すような大衆居酒屋や焼き鳥屋さんによくある、“売り切れ御免”です。

理想的な売り切れ御免の店

売り切れ御免のよい実例として、東京・足立区の北千住に、「徳多和良」という立ち飲み居酒屋があります。書籍で一般に広く紹介するのは常連さんに怒られそうなほどの超人気店です。

店主は割烹料理店で修業を積んで独立したそうですが、高級食材をふんだんに使い、丁寧なプロの仕事をしてしつらえた珠玉の料理が、一品300円から500円+税で提供されています。

この店で、ヒラスズキのお刺身を初めていただきました。海が荒れた日の白波の中でしか釣れないという、釣り人にとって憧れの高級魚です。その美味しさと感激は忘れられません。

この店で食事ができることは、幸せの極みです。

ただし、このお店には独自のルールがあります。「一組3人まで、1時間まで、予約不可」。もちろん禁煙です。そして、夕方4時開店、8時最終入店、9時完全閉店です。8時で早々と閉店になることも多く、4〜5時間しか営業していません。

それでも店頭から人の列が途絶えることはありません。雨の日も雪の日も、営業中に店の外に待つ人がない状態を見たことがありません。

まさに、理想的な売り切れ御免です。6時台には、品書きにあるメニューが次々と赤い線で消されていきます。後から運良く入店できた人は、何が頼めるかをお店のスタッフに尋ね注文していきます。あるものを食べられるだけで幸せだと、客足が途絶えることはありません。

こうして毎晩、5時間以内に入荷した食材を売り切っています。廃棄ロスがほとんどありません。だからこそ、高級食材を使った料理を300円から500円で提供できているのです。

もう1つ、特筆すべきはその回転率の高さです。一般的な居酒屋やレストランは、6時間営業で2回転もすれば合格ライン。ところが徳多和良は、1時間制を設けることで、5時間で何回転もさせています。しかも空席なし。

店内には、だらだらお酒を飲んでいたり、雑談に興じたりしているお客はいません。並んでいるときにメニューを確認し、入店するやすぐに注文し、期待に胸を膨らませながら静かに料理の提供を待ちます。ようやく巡り会えた料理を目で見て楽しみ、口に入れてしっかりと噛み締め、驚き、味わい、美味い酒とのマリアージュを楽しみ、幸せの余韻に浸ります。そうして静かに会計を済ませ、きっかり1時間で大いに満足と感謝をして店を去っていきます。

次ページ売り上げをセーブし、廃棄ロスを減らす
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