飲食店がお手頃価格のランチを出す真の理由 素人が安易に始めて成功できる事業ではない

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「儲かる夜に来てもらうために、ランチ営業で客寄せをしているんでしょ?」

と、したり顔で思ったあなた。残念ながら不正解です。実は、高級店であればあるほど、ランチとディナーとで客層がまったく異なり、そうした効果は期待薄。

喜んでランチに足を運ぶお客は、夜に自腹で来ることはほとんどありません。上司や取引先や彼氏や、とにかく誰かに御馳走になるときにだけ、「いいお店があるんです。私はランチしか行ったことないんですけど……」と言って予約を入れます。現実はシビアです。

FL比率を下げるための経営努力

それでも店主がランチ営業をする理由はただ1つ、「FL比率を抑えるため」。

Fはフード(食材原価)、Lはレイバー(人件費)のことです。売り上げの55%以下にこのFL比率を落とさないと、採算が合わなくなり、経営が傾くといわれています。

良い食材を使っているお店は、何日か経って鮮度の落ちた食材を出すわけにはいきません。しかし、良い食材は高いので、廃棄するのはもったいない。牛肉、豚肉ならいくらか保存もきき、多少の熟成効果もあるかもしれませんが、鮮魚、野菜、鶏肉は鮮度が命です。だからといって、高級食材をそのまま廃棄してしまえば、F比率はたちまち跳ね上がります。

好きなだけ食材におカネをかけてクオリティを上げることは誰にでもできますが、利益、商品価格とのバランスを考えなければ経営は成り立ちません。

そして、夜だけの営業では食材のコントロールはできません。予約で埋まる店でないかぎり、天気やイベントごとにも左右され、その日に何人の客が来るか正確には予測できません。また、コース料理でないかぎり、アラカルトで客が何を注文するかもわかりません。

予約客が前日や当日キャンセルなんてことはしょっちゅうですし、だからといって、キャンセル料を取り立てることはまずできません。

また、夜間の営業中、すでに食事を済ませたグループ客が、2軒目にやって来ることもあります。数品のつまみを注文し、いちばん安いお酒をちびちび飲みながら何時間も居座られることも。あとから来たお客さんを仕方なく断り、閉店から1時間過ぎてようやく帰ってもらったと思ったら、ちっとも料理が出ていなかった……というような日ももちろんあるのです。

飲食店が「水商売」といわれるゆえんです。

仕入れた食材を効率よくハケさせることなど、よほどの人気店でないかぎり不可能なのです。

なぜ飲食店オーナーは、睡眠時間を削ってまで儲からないランチ営業をするのでしょうか。もうおわかりですね。彼らは、ランチ営業で前夜の残りを消費し、廃棄を極力減らすようにコントロールしているのです。

お寿司屋さんのランチ握り、海鮮丼、ばらちらし、居酒屋の刺身定食、ミックスフライ、あら汁、浅漬け、きんぴら、そして、日替わりランチメニュー……。それらの多くに前日の夜の食材を転用することで、トータルでF比率を大きく引き下げているのです。

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