「第4の携帯会社」楽天が直面する大きな課題 アマゾンを利する?両刃の剣となる可能性も

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楽天は、現在ドコモから通信回線を借りてMVNOの「楽天モバイル」を展開している。自社の通信キャリアが立ち上がり次第、楽天モバイルの会員は自社回線に移行される予定だ(撮影:風間仁一郎)

他方で、事業面でも通信キャリア参入は楽天にとって「諸刃の剣」のリスクをはらむという見方もある。「楽天経済圏」の拡大を狙う楽天では、楽天モバイルの利用者向けに、グループ内の各サービスでの還元をアピールしている。例えば楽天市場では、楽天モバイル利用者のポイント還元率は1%プラスされ、楽天モバイルでは利用料金100円につき1ポイントが付与されるといった具合だ。

楽天は提携先を増やすことで、「楽天経済圏」を拡大させてきた。2017年6月からはマクドナルドの店舗で楽天ポイントが使えるようになった。

楽天モバイルの利用者は現在約150万人だが、MNOに移行後に多くの利用者(将来的な目標は1500万人)を取り込むため、楽天関係者は「より大きなポイント還元をする可能性はあるだろう」と話す。考えられるのは、新規の加入者に数千ポイントを付与したり、楽天モバイルの時以上にポイント還元率を高めたりするようなやり方だ。

三木谷氏は常々、楽天モバイルを「通販や金融とシナジーが高い」と強調しているが、MNOでモバイル事業を拡大すれば、シナジーをより高める方向に動く可能性は高い。

ライバルのアマゾンを利する可能性も

だが、通販事業も手掛けるある大手企業の幹部は、「かえって(楽天のライバルでネット通販最大手の)米アマゾンを利することになるのではないか」と首をひねる。自社キャリアユーザーへの還元は、裏を返せば自社キャリアを使わないユーザーが相対的に損をすることになるからだ。

この幹部は、「アマゾンが絶対にアマゾンモバイルを作らないのは、全キャリアのユーザーが利用者の対象になるから。キャリアを本格的にやると、対象の客は狭まる」と見る。仮に、楽天がMNOで4分の1のシェアを取れても、楽天経済圏の中での循環を強めれば、他の3キャリアのユーザーにそっぽを向かれるかもしれない。楽天の通販事業にとっては、MNOの成長は必ずしも良い結果になるとは限らない。

ただ、懸念点を示した吉田会長や北氏も、楽天の参入によって業界の競争が活性化し、新しいサービスができたり、料金面が下がったりすることへの期待から「頑張ってほしい」とエールを送る。楽天が進む道は決して平坦ではないが、多くの期待を背負っていることも事実だ。楽天1社の命運を左右する以上に、通信キャリア参入の成否への注目度は高い。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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