英国の欧州連合(EU)離脱まで1年を切った。2016年6月の国民投票で離脱を選択した直後は、英国経済の失速が懸念されていたが、これまでのところ、GDP(国内総生産)は実質年率で1%台後半の拡大ペースを保っている。2%超の過去のトレンドと比較して、やや弱めという程度だ。
イングランド銀行は追加利上げに布石
中央銀行のイングランド銀行(BOE)は、国民投票後の2016年8月に利下げと量的緩和の再開など、緩和の再拡大に動いたが、2017年11月には、およそ10年ぶりの利上げに転じた。2018年3月22日公表の直近の金融政策委員会(MPC)でも、9名の委員のうち、2名が25ベーシス・ポイントの利上げに票を投じている。
2月のインフレ率は1月の前年同月比3.0%から同2.7%に鈍化したが、なお、BOEの目標である2%を大きく超える。MPCは3月の声明文に「インフレ目標の回帰には引き締めの継続が適切」という文言を盛り込み、利上げへの布石を打った。5月10日に結果が公表される次回MPCで追加利上げに動く可能性はかなり高そうだ。
MPCが追加利上げに動くベースには、EU離脱という歴史的イベントの前後でも、英国経済の基調に大きな変化はないという判断がある。MPCが金融政策判断のたたき台とする2月の「インフレ報告」では、2020年にかけて1%台後半の成長が続くと予測されている。5月に予定される次の報告も、おそらく2月時点の判断を追認するだろう。
はたして、BOEの見立てどおり、2019年3月のEU離脱が英国経済の急減速、さらには世界経済下振れのリスクとなる可能性は、低いと見てよいのだろうか。
メイ政権は今も、EU離脱とともに、財・サービス・資本・ヒトの移動が自由な「単一市場」からも、域内関税ゼロ、対外共通関税、共通通商政策をとる「関税同盟」からも離脱する「ハードな離脱」の方針を掲げている。離脱派が国民投票のキャンペーンで掲げた「コントロールを取り戻す」ためだ。
「ハードな離脱」ではあるものの、3月のEU首脳会議で2020年末までを現状を維持する「移行期間」とすることで合意、激変は緩和される見通しとなった。移行期間中、英国は、EUとの間でFTA(自由貿易協定)の交渉を進めるとともに、第三国とも通商交渉、調印、批准手続きを行うことができる。移行期間の合意には、2019年3月の離脱前に、企業が離脱対応計画実行を急ぎ、景気が失速するリスクを低減させる効果がある。
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