英国のEU離脱まで1年、不安がぬぐえないワケ EUとの間にまだ大きな隔たりが存在する

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強硬離脱派は、EUが移行期間の条件とした「ヒトの移動の自由の継続」や移行期間中に新たに制定された新法も含めて「EU法を受け入れ」、「EU司法裁判所の管轄を認める」ことに反対だった。しかし、「確実に離脱」するために「円滑な離脱」に必要な譲歩をした。強硬離脱派にとっては通商交渉の自由という成果も得られた。 

移行期間についての合意で、2019年3月にかけての英国経済の急減速のリスクはとりあえず低下したが、EU離脱の道筋はなお不透明だ。2019年3月の円滑な離脱の前提には、英国とEUが「離脱協定」と「将来の関係に関する政治宣言」で今年10月にも合意することがあり、その実現は決して楽観視できないからだ。

アイルランドめぐり移行期間白紙化も

離脱協定については、2017年12月の大枠合意を基に、欧州委員会が草案を作成しているが、まだ未合意の領域も残っている。特に、付属議定書として盛り込まれているアイルランドと北アイルランドとの国境問題では隔たりが埋まっていない。

3月19日に欧州委員会が公開した129ページの離脱協定草案は、合意済みの条文には「緑色」、政策目的では合意済みだが変更などの可能性がある条文には「黄色」のマーカーが塗られている。他方、EU側の提案で協議中だが、合意に達していない条文は「白色」のままとなっている。

EUが離脱協定の交渉開始時に優先領域とした3つに注目すると、市民の権利と清算金はすべての条文が「緑色」だが、アイルランド問題の付属議定書では「緑色」は両国間の自由な移動を認める「共通旅行区域(CTA)」の継続など、ごく限られている。「厳格な国境管理の回避」の方針は「黄色」、つまり一致しているが、「EUと北アイルランドを共通規制区域とし、北アイルランドがEUの関税同盟に残る」という条文は「白色」のまま、つまり、EUの提案の段階にとどまっている。

メイ首相は、英国内に関税や規制の境界を設けるEU提案に強く反発している。だが、メイ首相が2月2日の演説で示した方針は、ITを活用し、アイルランド国境を越える取引の大部分を占める中小企業は規制の対象外とし、大企業に対しては手続きを合理化するといったもので、具体性に乏しい。

今年10月までにアイルランド問題で合意できなければ、離脱協定全体が白紙化するリスクもある。付属議定書の適用は「移行期間終了後」であり、詳細は移行期間中に協議するという妥協の余地はありそうだが、楽観は禁物だ。

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