目の前のコップを知恵めがけて投げつけてきた。それが知恵の体に当たった。物を投げつけられたのは初めてで、頭の中が真っ白になった。暴言を吐くものの、知恵には手を上げなかったのに、初めて暴力を振るわれたような気持ちになった。
「何するのよー!」
とっさに近くにあったボール紙を丸めて、則雄に向かって投げつけると、それが彼の足に当たった。
「お前こそ何するんだ! 骨折したらどうするんだよ」
「骨折? 紙で骨折なんかするわけないじゃない?」
これまでずっと抑えつけてきた感情が一気に爆発し、怒りに任せて則雄と同じテンションで怒鳴り返した。
すると、則雄はさらに怒りを増幅させ、これまでで一番の大声で怒鳴った。
「帰れ! さっさ消えろ!! 結婚は取りやめだっ!!!!」
その日は、泣きながら自分の家に帰った。しかし、1日経ち2日経ちすると、知恵には後悔の念が押し寄せてきた。やっとのことで結婚できる相手に出会い、新居まで購入したのだ。なんとか修復できないか。その後は何週間にもわたって、何度も何度も泣いて謝ったが、則雄は聞く耳を持たず、「結婚はできない。買ったマンションは俺が引き取る」の一点張りだった。
見た目や年収よりも、穏やかな人がいい
破局に至った経緯をここまで話すと、知恵は言った。
「20代のころ、8年付き合っていた人がいたんです。大学在学中から、30歳になる直前まで。今考えれば、めったに怒る人ではなかったし、その人をもっと大事にして結婚してしまえばよかった。あまりにも付き合いが長すぎたのと、最後の3年は彼が仕事で転勤になって、気持ちがすれ違ってしまった。あのときは彼と別れても、次がすぐ見つかると思っていた。でも、30歳を過ぎたら恋愛できる相手も急激に減ったし、35歳を過ぎてからは、恋愛する相手すら見つからなくなった」
さらに、知恵は続けた。
「3年前結婚相談所に入った当初は、年収、見た目にこだわっていたけれど、今は、まじめに仕事をする人で、ちょっとしたことでは怒らない、穏やかな人がいいなと思います。でも、そういう人は、出てくるんでしょうかね?」
「出てくるまで、逢い続けましょう。伴走しますよ」
すると、やっと笑顔を作った。
「そうですね。残りの人生をひとりぼっちで生きていくのは、やっぱり寂しいですから」
こうして知恵の新たな婚活が、リスタートした。
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